JR九州、「被災と復旧」を際限なく繰り返す苦悩 4年ぶり豊肥線再開の一方で肥薩線が豪雨被災
対岸の民家で住民が家具を片付いているのが見えた。たくさんの消防車が止まっていた。数台のパトカーと行き違った。豪雨から1カ月以上経っているというのに、復旧作業はまだ緒に就いたばかりだ。
肥薩線では那良口―渡間に架かる球磨川第二橋梁も流失した。これらの橋は復活できるのだろうか。明治時代と現代では安全基準が異なるし、橋の強度設計も違う。さらに単に橋を作り直すのではなく、護岸工事も必要となる。だとすると、これらの橋が元通りの形で復活するのは難しいかもしれない。
そもそも、肥薩線が鉄道で復旧されるかどうかも不透明だ。2017年7月の「九州北部豪雨」で被災した日田彦山線は、被災区間を鉄道ではなくBRT(バス高速輸送システム)で復活することになった。復旧後の維持費負担についてJR九州と自治体の間で合意が得られなかったことが鉄道を断念した理由の一つだ。
100円の営業収入を得るためにどれだけの費用がかかるかを示す「営業係数」という指標がある。JR九州が公表した2018年度実績値を元にこの指標を算出すると、肥薩線の場合は、八代―人吉間が311円、人吉―吉松間が527円、吉松―隼人間が399円。100円の営業収入を得るためにその3〜5倍の費用がかかっている計算だ。これでは、多額の費用を投入して鉄道復旧にこぎつけることがはたして妥当なのかと思えてくる。
「鉄道で再開前提」だが…
こうした見方に対して、JR九州に近い関係者は、「肥薩線はJR九州にとって大事な観光資源だから、鉄道で復旧させるはず」と言い切る。確かに肥薩線は、日本三大車窓に数えられる大パノラマ、嘉例川駅をはじめとした多数の木造駅舎、スイッチバックなど多くの見どころがある。「SL人吉」「かわせみ やませみ」「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」といった観光列車が走る。肥薩線に乗るために九州新幹線に乗ってくれれば、あるいは、肥薩線と合わせてほかの列車に乗ってくれれば、肥薩線の赤字は穴埋めできる。
青柳社長は、7月28日に福岡市内で行われた定例会見で、「まずは鉄道での再開を前提に復旧費用がどのくらいかかるかを見ながら、復旧方法を考えていく」と述べた。
この発言は、鉄道で再開するということを意味するのだろうか。ただ、BRTへの転換が決まった日田彦山線のことを考えると、予断は許されない。
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