JR九州、「被災と復旧」を際限なく繰り返す苦悩 4年ぶり豊肥線再開の一方で肥薩線が豪雨被災

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同法では復旧費用補助の条件として、復旧後の長期にわたる運行計画の策定を求めている。これは路線収支の改善が必要であることを意味する。「阿蘇方面に多くの人々を送り出したい」と、青柳社長は宣言したが、これは期待というよりも、むしろ必達目標。JR九州は豊肥本線の全線開通に合わせ、人気漫画「ONE PIECE(ワンピース)」を活用した県の復興プロジェクトとのコラボ企画をはじめ、さまざまなキャンペーンを開始して集客に躍起だ。

記念式典後、ホーム上で、阿蘇方面に向かう観光列車「あそぼーい!」の出発式が開催された。その様子をカメラに収めようと、多くの鉄道ファンがホームに押し寄せた。工業デザイナー・水戸岡鋭治氏の手による白と黒のツートンカラーの列車が姿を見せると、あちこちで歓声が湧いた。「明るいイベントには水戸岡さんの華やかなデザインが映えるね」という会話が聞こえた。熊本駅長と熊本県のゆるキャラ「くまモン」による合図で、満席の列車が定刻の9時9分に出発した。

再開の一方で新たな災害が

全線再開で喜びいっぱいの豊肥本線と対照的なのが肥薩線だ。球磨川沿いを走り風光明媚な路線として知られる肥薩線は、令和2年7月豪雨で大きな被害を受けた。7月13日時点の被災箇所は65だったが、7月21日時点で450カ所に増えた。「現地調査をできていない場所も多いので、被災箇所はもっと増える可能性がある」とJR九州の担当者が厳しい表情で説明する。

一部を残して流出した球磨川第一橋梁。手前に崩落したトラスが見える(記者撮影)

豊肥本線と肥薩線の沿線の様子を比較するため、熊本駅の出発式終了後、在来線で八代駅に出て、そこからタクシーで被災現場に向かった。八代と人吉を球磨川沿いで結ぶ国道219号や県道は「あちこち寸断されており、通れない場所がある」とのことで、迂回ルートの峠道を通って球磨川沿いに出た。

球磨川の流量は平時に戻っていたが、鎌瀬―瀬戸石間に架かる球磨川第一橋梁は橋の半分が流失し、川面に鉄の骨組みが無残な姿をさらしていた。この橋は明治時代に建造され、煙を吐きながら蒸気機関車「SL人吉」が橋を渡る様子が鉄道ファンの間で人気だった。

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