堀紘一氏、クリステンセン教授と経営を語る 経営とは理論的なのか
コンサルティングは理論的か
クリステンセン:一例を挙げましょう。社会科学では相関性を追求し、それゆえに因果関係ではなくて確率を示すようになります。
私は5年くらい前に濾胞(ろほう)性リンパ腫と診断されました。腹部に大きな腫瘍があってかなり進行していました。当時、リンパ腫は37種類あり、私は生検を受けました。
その結果を聞きに行くと、医師からスライドを見せられ、こう言われたのですよ。「これがあなたの組織です。1番のようでも、2番のようでもありません」。そうして23番まで来たところで、医師はこう言いました。「ほら、あなたはこれなのです。濾胞性リンパ腫といいます」。
さらにこう言われました。「この第1の治療法ですと、5年後の生存率は73%です。第2の治療法はもっと新しくて、まだ早い段階にあるのですが、これなら5年生存率が86%になります。ですから第2の治療法を選択すべきでしょう」。
お気づきでしょうか。医師は私個人については何も言えませんでした。患者全体に対する一般論としては述べることができたわけですが、要は相関性を見ているからです。私ひとりについては何も言えませんでした。
というわけで、レンズセットは便利なのですよ。ひとつの業界を見つめて、因果関係の森を描き出します。そうすれば、与えられた状況の下で、病院ならこうすべきだ、保険会社ならこうすべきだ、ということを因果関係で示せるようになるのです。
ですから使う言葉は違っても、あなたも同じことをしているような気がします。問題に出合うと、頭の中でいくつかの理論を展開していますよね。相関性ではなくて因果性を求めてです。そういうビジネスだとお見受けします。
堀:さあどうでしょうか。まず、私はそれほど理論的ではありません(笑)。経営コンサルタントというのは、やや理論的というか、ほぼ理論的というか。
クリステンセン:それは違うと思いますよ。理論というのは因果関係を示すものですから、あなたが取った行動も、頭の中の理論に基づいていたはずです。これをやれば必要な成果を得られるだろう、という理屈があったはずなのです。経営者として何か計画をまとめるときも、こうすればこうなると断定できるような、因果性を示す理論セットに基づいているのです。
「理論的」という言葉には、実用的でないとか学術的だという意味合いもありますが、理論そのものは決してそうではありません。理論は因果関係を提示するものです。人は行動を取るたびに理論を用いているのです。
経営者は、日頃から理論を多用しています。彼らは、理論を用いているという自覚がないので、世の中が予測不可能なものに見えるのです。
あなたも盛んに理論を駆使しているんですよ。きっとBCG時代にも、頭の奥のほうで数々の因果関係を検討したからこそ、当時の仕事の代わりに今の仕事を選んだのです。ご自身ではそのように考えないとしても、本当にいい理論があるのでしょう。
(翻訳:石川眞弓)
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