人口減少の日本には「所得倍増計画」が不可欠だ 単発の政策ではなく「パッケージ」で対応せよ

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今までの日本政府は、「小さい企業は、力が弱くてかわいそうだから支援する」という考え方のもと、政策を実行してきました。しかし、労働生産性を向上させるという観点からはまったく成功しているとは言えません。

これからは、労働生産性の向上を経済政策の基軸にして、頑張っている企業をとにかく支援することが求められます。

国難を打開する「政策パッケージ」が必要だ

日本では従業員数が少なく、資本金が1億円以下の中小企業が、企業支援の対象の大半です。このような基準で支援対象を決めてしまうと、企業としては優遇措置と補助金をもらい続けたいので、自ら成長を止めるようになります。

実は、資本金1億円以下の慢性的赤字企業の売上が、日本企業全体の売上の32%を占めています。赤字である以上、これらの企業は法人税を払っていません。「合法な脱税」と言っても過言ではないこの数字には、正直言葉もありません。

つまり、良かれと思って実行していた支援策が、結果として小規模事業者の成長の妨げとなっているのです。優遇対象となる基準の手前で自ら成長を止めるこの現象は「bunching」と言って、日本でも統計分析によって確認されています。

人口減少時代に対応するため、日本が実施するべき理想的な政策は以下になります。

(1)中小企業庁を企業育成庁に改組
(2)中小企業の定義を「500人以下」まで拡大
(3)小規模事業者より中堅企業を厚く支援
(4)中小企業の税優遇基準となっている「資本金1億円以下」という基準を廃止
(5)補助金などを出すときに必ず、今の生産性と生産性向上目標を記入させる
(6)経営者の教育を徹底
(7)税優遇は主に研究開発や設備投資に限定
(8)小規模事業者の支援期間を5~7年間に限定し、それ以降は支援を打ち切る
(9)段階的に最低賃金を引き上げる

日本の研究でも、海外の研究でも、最低賃金を引き上げると、労働力は小規模事業者から中堅企業に移動することがわかっています。内閣府経済社会総合研究所が2020年6月に発表した「最低賃金引上げの中小企業の従業員数・付加価値額・労働生産性への影響に関する分析」にも、同様の言及があります。

小規模事業者の圧力団体たる商工会議所は「雇用が減るから、最低賃金は引き上げるべきではない」と言って反対しますが、この主張は根本的に間違っています。たしかに小規模事業者の雇用は減りますが、国全体の雇用は減らないのです。

中堅企業への支援策を拡充しながら最低賃金を引き上げていけば、小規模事業者は減りますが、国全体の雇用は減りません。産業構造は強化されます。労働生産性も賃金も上がります。商工会議所の会員数は減るかもしれませんが、日本という国の運命を商工会議所のためにダメにするわけにはいきません。

すでに日本が直面している人口減少は、国難以外の何物でもありません。このような困難な時代に立ち向かうためには、最低賃金さえ引き上げればいいとか、最先端技術によって対応しさえすればいいなどという、単純な話ではありません。総合的な政策パッケージが絶対に必要です。

日本経済の問題の研究を約6年間かけて行ってきました。日本に30年以上住んで、素晴らしい半生を送ることができた私なりの恩返しのつもりです。生産性に関する本を6冊執筆し、多数の記事も発表しました。

多くの皆さんからの批判、指摘、疑問をいただき、そのたびに自分自身の分析も深めてきました。その結果、この問題に対しては、私の理論は一種の完成に至ったと自負しています。皆様に感謝申し上げます。

今振り返ってみると、かつて実行された所得倍増計画は素晴らしい政策でした。人口減少の時代には、やはり「第2次所得倍増計画」が必須だと思います。1日も早くコロナが終息して、「第2次所得倍増計画」が実行されることを祈ります。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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