話術には、人間力のすべてが出る 田坂広志さん、新刊を語る

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「話術」を磨くことで「人間」を磨く

――官民問わず、日本のリーダーに必要なことは何でしょうか?

  田坂:「話術」を磨くことですね。日本のリーダーには、世界の舞台に出たとき、堂々と通用する「話術」を身につけている人物がほとんどいない。繰り返しになりますが、それは、「語学力」の問題ではない。「人間力」の問題です。なぜなら、「話術」には、その人間の力量が、すべて出るからです。ごまかしがきかない。従って、「話術」を磨くということは、単なる「スピーチテクニック」を身につけることではなく、「人間」を磨くということです。

 例えば、スピーチをさせたとき、その場で聴衆に受ける話ができる政治家や経営者はいますが、「存在感」や「重量感」を感じさせる政治家や経営者がいない。そして、「言霊」(ことだま)を語れる人物がほとんどいなくなった。「言葉」というものは不思議なもので、それを語る人間が深い信念を持っていると、訥々と話しても、言葉に魂が宿り、「言霊」が宿る。そして、それが聴衆の感動を呼び、人々を動かす力となる。そうした「言霊」を語れる政治家や経営者が、残念ながら、いなくなりました。

 だからこそ、日本のリーダーに、いま、求められているのは、「話術」を磨くことを通じて「人間」を磨き、「言葉」を鍛えることを通じて、「精神」を高めていくことでしょう。

――本書をどんな方に読んでいただきたいですか?

田坂:若い世代の方々に読んで頂きたいですね。この本に書かれているのは、世界各国の大統領や首相の「話術」についてですが、もし若い方々が、「話術」というものを身につけたいと思われるならば、まず最初に、「話術」というものの最高峰の人間の姿を学び、心に焼き付けて頂きたいのですね。丁度、登山に喩えて言えば、目の前の小山や尾根ばかりを見ながら登っていくのではなく、遠く遥かに聳え立つ山の頂を見つめ、心に焼き付けて頂きたいのです。なぜなら、その山の頂を心に焼き付けていると、不思議なほど、自分の中から可能性が開花してくるからです。逆に、目の前の小山しか見ていなければ、その可能性が花開くことはありません。

 そして、世界の一流のスピーカーの姿から学んだものは、日々の仕事や生活でも、必ず、役に立ちます。例えば、スピーチの前に、「今日は、どの人格で話をしようか」と考えるだけで、スピーチの軸が定まります。「今日は、どういう立場で語ろうか」と「位取り」を定めるだけで、話に説得力が生まれます。「聴衆の無言の声に耳を傾ける」という姿勢を身につけるだけで、不思議なほど、聴衆からの共感が得られるようになります。

 この本のタイトルは「世界のトップリーダーの話術」ですが、ここで語られている「言葉を超えたメッセージ」を発する力を身につければ、日々の仕事においても、必ず、役に立つでしょう。この本は、そうした意味で、多くの若い世代の方々に読んで頂きたいと思い、書きました。

 ただし、この本は、決して書店で立ち読みしないように(笑)。一度、読み始めると、恐らく読むのが止まらなくなります。全18話を、一挙に読んでしまうでしょう。なぜなら、この本は、「話術」がテーマの本ですが、「18の短編小説集」のように書いたものでもあるからです。私にとっては、ある意味で、「話術エンターテインメント小説」でもあります。従って、この「娯楽短編小説集」について、読後の感想を送って頂ければ嬉しいですね(笑)。

田坂 広志 田坂塾・塾長、多摩大学名誉教授

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たさか ひろし / Hiroshi Tasaka 

1951年生まれ。1974年東京大学卒業。1981年同大学院修了。工学博士(原子力工学)。1987年米国シンクタンク・バテル記念研究所客員研究員。1990年日本総合研究所の設立に参画。取締役等を歴任。2000年多摩大学大学院の教授に就任。同年シンクタンク・ソフィアバンク設立。代表に就任。2005年米国ジャパン・ソサエティより日米イノベーターに選ばれる。2008年世界経済フォーラム(ダボス会議)のGlobal Agenda Councilのメンバーに就任。2010年世界賢人会議ブダペスト・クラブの日本代表に就任。2011年東日本大震災に伴い内閣官房参与に就任。2013年全国から経営者やリーダーが集まり「21世紀の変革リーダー」への成長を目指す「田坂塾」を開塾。

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