「ラコステ」の復活ストーリー
2009年、上海で行われたある広告クリエーティブ・コンテストの審査員を務めた時のこと、私が担当した「インターネット部門」の審査中に話題になったフィルムが、ラコステの「Future of Tennis」でした。ラコステは、1933年、フランスの伝説のテニスプレーヤー、ルネ・ラコステが創業したスポーツ・アパレルブランドで、ワニのマークのポロシャツが世界的に大流行しました。しかし、その後アディダスやナイキ、リーボックなどの本格スポーツブランドの登場で影が薄れてしまいました。
2008年、創立75周年を迎えたラコステが、ブランドを再活性化する目的で作ったのがこのムービーです。西暦2083年のテニス・ゲームの姿を未来的な映像でダイナミックに描いて、「Let’s re-invent the game」で締めくくっています。未来は予測の対象ではなく、自分で創造し実現していくものだという強い意志を感じさせるフィルムで、ネット上で話題になると共に、ラコステの古臭いイメージを一新する原動力となりました。
ラコステは、製品や売り場も大胆にリフレッシュしました。2002年、クリストフ・ルメールのデザインによる、タイトなシルエットとクリーンな色彩の商品展開をスタートし、2012年からはフェリペ・オリヴェイラ・バティスタをデザイナーに迎えて、コンテンポラリー路線を強化、今年のコミュニケーションは「Life is a beautiful sport」をテーマに展開中です。ラコステは、自ら未来を創造することによってブランドの「Refresh and recharge」を実現したのです。
昭和を駆け抜けたブランドたち
私が子供の頃、1960年代~70年代の高度経済成長期は、日本におけるブランドの発展期でもありました。思い起こすと、様々なブランドとの出会いが浮かんできます。日本勧業銀行(みずほ銀行の前身の一つ)が企業スローガン「ばらの勧銀」のシンボルとして開発した、オリジナルキャラクター「のばらちゃん」のソフビ人形の貯金箱。グリコの「鉄人28号ガム」、丸美屋の「エイトマンふりかけ」、明治の「鉄腕アトム・マーブルチョコレート」などの、人気漫画キャラとのコラボ商品。本を買いに神田神保町の有名書店「三省堂」や「東京堂」に連れて行ってもらう時のときめき。
中学進学時、クラスのほぼ全員が、特典の万年筆欲しさに年間予約したのが、旺文社の「中一時代」か、学研の「中一コース」でした。子供たちにとっては、「老舗定番ブランドvs.新興チャレンジャーブランド」のどちらが自分の価値観に合うかの選択でもありました。
70年代に入ると、「アーノルド・パーマー」のカラフルな傘のシンボルマークが衝撃のデビュー。当時、洋服やハンカチに付いている傘やペンギンやワニは「ワンポイントマーク」と呼ばれ、圧倒的な付加価値を誇示しました。その後、「イヴ・サンローラン」、「ピエール・カルダン」といったパリ・オートクチュールの巨匠のブランドが、ライセンス契約によってタオルや食器などの家庭用品に使われて全国的に普及しました。ところが、ブランドロゴ入りスリッパが家庭のトイレで使われるに至り、ヨーロッパの偉大なブランドの価値も地に落ちてしまいました。
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