最低賃金「引上げ反対派」が知らない世界の常識 専門家のコンセンサス「雇用への影響はない」
学術の世界でコンセンサスという言葉を使うとき、その言葉が意味するのは「すべての専門家が合意している」ということではありません。研究者たちも人間ですから、当然、どんなテーマに関しても反対の声を挙げる人はいます。学術の世界でも、コンセンサスとは大多数の意見のことだと捉えられています。
ですから「最低賃金を引き上げると雇用への悪影響が生じる」という結論の論文も、最低賃金の引き上げに反対している人が躍起になって探せば、どこかで必ず見つかります。しかし大切なのは、その論文が提示している意見が、過半数以上の専門家によって支持されているコンセンサスなのか、あるいはコンセンサスから外れている少数派の意見なのかです。
言うまでもなく、コンセンサスを無視し、コンセンサスからかけ離れている例外的な論文を取り上げて、それを根拠に自分の意見を正当化するのは、正しい議論ではありません。
1400以上の検証を網羅した「メタ分析」
学術の世界のコンセンサスを確認するための方法が、「メタ分析」です。
メタ分析とは、過去に独立して行われた多くの研究論文を集め、そのすべてのデータをもとに、それぞれの分析に偏重などがあるかどうかを検証し、何がコンセンサスなのかを確認する分析手法です。医療分野の研究では頻繁に使われる手法です。
2017年に発表された「The impact of the National Minimum Wage on Employment」は、最低賃金の引き上げによる雇用への影響を分析した1451もの研究をまとめてメタ分析した論文です。この研究はイギリスの低賃金機構の依頼によって実施されました。
低賃金機構は統計分析に基づき、最低賃金の引き上げによる影響と効果を検証する機関です。毎年、雇用への影響がないような最低賃金の引き上げ幅を政府に提案するという、大変重い責任を担っている専門家集団です。
この論文の結論は、「最低賃金の引き上げは、一部のサブグループに対する影響はあるものの、雇用全体への影響はない」ということです。
最低賃金を引き上げると、たとえば、非正規雇用の人が減る代わりに正規雇用の人が増えることが、ドイツなどで確認されています。また、パートタイムの人がフルタイムになることも確認されています。
このように、一部の雇用が減る一方で増える雇用もあるので、全体としては雇用への影響はないという結論です。
ここからわかるのは、雇用全体ではなく一部のデータだけを見れば、どんな結論の論文も書けるということです。
たとえばパートタイムの統計だけを見れば、「雇用への悪影響が出る」という結論になります。一方、全体の雇用への影響がない以上、パートタイムの雇用が減った代わりに、フルタイムの雇用が増えているはずです。そのデータだけを取り上げれば、最低賃金の引き上げによって、雇用が大きく増えるという結論も導き出せます。
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