最低賃金「引上げ反対派」が知らない世界の常識 専門家のコンセンサス「雇用への影響はない」

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余談になりますが、このように求める結論を出すために恣意的にデータを選ぶことを、Policy Based Evidence Making(PBEM:政策に基づく証拠作成)といいます(もちろん皮肉です)。

政策の立案は、本来エビデンスに基づいて行われるEvidence Based Policy Making(EBPM:証拠に基づく政策立案)であるべきなのですが、どうしても実行したい政策を正当化するために行われる歪んだデータ分析をPBEMと呼ぶのです。

メタ分析は、このように偏った分析をあぶりだすこともできます。

信頼性の高い分析ほど「影響しない」と結論づけている

では、先ほどの論文でメタ分析にかけられた1451の分析からは、どのようなコンセンサスが得られるのでしょうか。

ぜひ元の論文に加え、その中の分析で紹介されている他のメタ分析も原文で読んでいただきたいのですが、検証した分析結果の分布を示した図を見ていただくだけでも、大いに参考になると思います。

注:縦軸は各分析の確からしさを、横軸は最低賃金の引き上げが雇用の機会と労働時間に与える影響を示している。
出所:The impact of the National Minimum Wage on Employment, by Marco Hafner, Jirka Taylor, Paulina Pankowska, Martin Stepanek, Shanthi Nataraj and Chris van Stolk, 2017

最低賃金を引き上げた結果、雇用の機会と働く時間がどれほど増減したか示しているのが横軸です。これを見ると、多くの分析がおおむねゼロ近辺に集中していることがわかります。ここから、「最低賃金を引き上げても雇用全体には影響が出ない」ことがコンセンサスだと断言してもいいと思います。

実はこの図は、検証に使われた分析に出版バイアス(否定的な結果が出た研究は、肯定的な結果が出た研究に比べて公表されにくいというバイアス)による偏重がないかを確認するためのものです(細かい説明をすると専門的になりすぎるので、厳密な議論に興味がある方は、ぜひ元の論文をご確認ください)。

この図のポイントの1つは、上に行くほど、主にデータ量が多いために検証が精密であることを示している点です(1/標準誤差)。検証が精密な分析ほど、雇用への影響が少ないと結論づけていることがわかります。

最低賃金の引き上げに反対する人は当然、この図の左下の論文を引き合いに出して、最低賃金の引き上げが雇用に悪影響を及ぼすと主張します。しかし、そう主張するのであれば、引き合いに出した論文が分布のどこにあるかを明確にするべきです。

結局、海外の専門家の間では、「最低賃金の引き上げは雇用全体には影響を与えない」がコンセンサスだと断言していいのです。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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