アスリート800人が語る「暴力指導」の衝撃実態 人権NGOが提起したスポーツ界の深刻な問題

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2018年11月には、ユニセフ(国連児童基金)と公益財団法人日本ユニセフ協会が、スポーツと子どもの課題に特化したユニセフとして初めての文書『子どもの権利とスポーツの原則』(Children’s Rights in Sport Principles)を発表した。

この原則では、
 1. 子どもの権利の尊重と推進にコミットする
 2. スポーツを通じた子どものバランスのとれた成長に配慮する
 3. 子どもをスポーツに関係したリスクから保護する
 4. 子どもの健康を守る
など、子どものスポーツから暴力・パワハラを排除することがうたわれた。

今年6月8日には、日本ユニセフ協会が「ユニセフ『子どもの権利とスポーツの原則』実践のヒント」(明石書店)という書籍を刊行。ユニセフも、ヒューマン・ライツ・ウォッチも、日本のスポーツに対して同様の問題意識を持っている。

一方で、ユニセフが「改善の余地あり」としているのに対し、ヒューマン・ライツ・ウォッチは「日本のスポーツ問題は、人権問題だ」と、より鋭い問題提起をしている。

「世界トップレベルの基準を設けるチャンス」

報告書『数えきれないほど叩かれて』は「東京オリンピック・パラリンピック競技大会の1年延期により、日本政府と日本のスポーツ団体には、スポーツをする子どもへの虐待を防止し、加害者の責任を追及するための世界トップレベルの基準を設けるチャンスが訪れているのである」と締めくくられている。

この報告書は、日本語だけでなく、6カ国語で世界に発信された。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ東京オフィスの湯村帆名氏は、報告書を発信した経緯について「これは日本だけの問題ではなく、国際的に大きなテーマであるととらえています。これまでにも2008年の北京、2012年のロンドン、2014年のソチ、2016年のリオデジャネイロなど、過去の五輪の際も報告を発表してきました」と語る。

そのうえで、「ヒューマン・ライツ・ウォッチは FIFA(国際サッカー連盟)やIOC(国際オリンピック委員会)などとも頻繁に仕事を共にし、人権ポリシーを策定するよう働きかけを行っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは長年にわたり、アスリートへの虐待について多くの経験を積み重ねてきました。この報告書の提言を真摯に受け止めることを期待します」と付け加えた。

日本のスポーツは、世界からこんな風に見られている。この強烈な問題提起に対して、スポーツ界はどのような対応をするのだろうか。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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