濁流が飲み込んだ線路…「九州鉄道被災」の現場 駅や車両も被害、一部区間は全容把握できず

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青井阿蘇神社の川と反対側に位置するJR人吉駅と、隣接するくま川鉄道の人吉温泉駅も、豪雨で駅ホームと車両が水に浸かった。当時、JRの2両(キハ220形・キハ140形)とくま川鉄道の5両(KT-500形)のディーゼル車が停まっていた。

きれいに清掃されたくま川鉄道の人吉温泉駅(JR人吉駅)。人の姿がなくひっそりとしていた(記者撮影)

くま川鉄道によると、社員が被災直後から汚泥の除去作業などに取りかかり、構内はほぼ清掃を終えた。一見すると、駅も車両も元通りになったように見受けられるが、同社担当者は「一度水に浸かった車両は漏電の危険があるため、エンジンをかけられない状態」と説明する。

くま川鉄道は1989年にJR九州から湯前線を引き継いだ第三セクターで、人吉温泉駅から湯前駅まで、盆地を東西に結ぶ24.8kmの路線を運営する。車両は工業デザイナーの水戸岡鋭治氏が手掛けた。冬・秋・春・夏・白秋と、各車両季節をテーマに設定していたが、今回の豪雨で5両すべてが浸水した。

くま川鉄道も鉄橋が被災

路線で大きな被害となったのが、川村―肥後西村間に架かる「球磨川第四橋梁」の流出。長さ322mで1937年の建造、国の登録有形文化財でもあった鉄橋だ。増水によって斜めに落ちた橋桁が遠くからでも確認できた。

橋桁が落ちたくま川鉄道の球磨川第四橋梁(記者撮影)

一方、肥後西村駅から湯前方面については線路や設備に目立った被害はないようだ。くま川鉄道の利用者は沿線の高校への通学が8割を占めるという。人吉温泉―湯前間の全線が当面再開できないため、20日から平日に限りバスによる代替輸送を実施する。

肥薩おれんじ鉄道も同日から不通区間の八代―水俣間で、主に通学利用者を対象としたバス代替輸送をすることにしている。

人吉駅では6月19日、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で運休を余儀なくされたJR九州の観光列車が約2カ月ぶりに運行再開したばかり。全国的に珍しくなってきた駅弁の立ち売りや歴史的な鉄道の遺産など、足を運ばなければ味わえない体験が肥薩線沿線の魅力だった。

コロナ禍によって熊本を訪れる外国人観光客が激減していたうえ、感染再拡大の懸念もあり県外からの被災地支援のハードルが高くなっている。熊本県や人吉市などの自治体は、今回の豪雨被害を受けて義援金の口座を開設した。くま川鉄道と肥薩おれんじ鉄道はホームページに寄付の方法を掲載している。

くま川鉄道の担当者は「直接来てもらうことは難しい状況なので寄付で支援してもらえるとありがたい」と話す。これまでも被災した第三セクターのために同業他社が記念切符を発売する例があったので、同じような支援の輪が広がるかもしれない。

ただ、毎年自然災害が起きているのに鉄道はなすすべがないのか。抜本的な対策の検討も併せて必要だ。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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