日中韓「想定外の人口減少」で直面する大問題 成長率低下で「中国の民主化」進む可能性も

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まず韓国の生産年齢人口(15~64歳)は、すでに2016年がピークで、それ以降、毎年10万~20万人減っています。戦争など混乱期や技術の大転換期を除くと一人当たりGDP(=生産性)は大きくは変わらないので、経済成長率は生産年齢人口の増減でほぼ決まります。つまり韓国は早晩、日本と同じくゼロ%に近い低成長になります。

現在、韓国では雇用環境が悪化し、若年層の失業率は10.7%(6月現在)に達しています。国内ではまともな就職口がないので、若者は仕事を求めて日本に大挙してやって来ています。この動きが、成長鈍化で今後加速するでしょう。これは人手不足に悩む日本にとってはメリットとも捉えることができます。

ただ、文在寅大統領が、国民からの批判をかわすために、北朝鮮との融和や反日政策をさらに推し進める可能性があります。これは日本にはマイナスでしょう。

今後10年「中国の大変化」に備える時期

韓国よりも要注意なのが、中国です。

中国では1979年から2015年まで続いた一人っ子政策の影響で、生産年齢人口は2014年をピークに減少に転じています。それに伴い中国の潜在成長率(景気循環を除いた巡航速度の成長率)は年々低下し、現在は4%台。OECDは2031年以降2.4%まで低下すると予測しますが、想定を超える少子化の進行で2030年より前に2%前後に低下することもあり得ます。

中国が低成長になると、インバウンド需要や日本からの輸出の減少で日本経済に悪影響を及ぼします。と同時に心配なのが、中国の政治体制の行方です。香港ではなく、中国そのものが共産党一党独裁を維持できるのかが問題になります。

これまで中国の国民が共産党の一党独裁を支持してきたのは、何といっても鄧小平の改革開放路線(1978年開始)から40年以上、経済成長を実現してきたためです。国民は、言論弾圧などに不満はあっても「政府の言うことを聞いていれば暮らしは良くなる」と納得しました。とすれば逆に、経済成長が止まると、政府は国民からの信任を失い、体制維持が困難になります。

低成長で国民から信任を失った共産党は、近々生き残りのために民主化に向けて舵を切る可能性があります。もちろん、なりふり構わぬ財政支出や統計操作を続けて、現体制を維持しようとするかもしれません。

共産党はどちらを選択するでしょうか。中国の国民にとっても世界にとっても、理想は共産党が段階的に民主化を進める前者です。

中国の民主化は、自由主義国家の日本にとっても基本的には好ましいことです。ただ、転換時の混乱や中国という後ろ盾を失った北朝鮮が自暴自棄になる可能性も考えると、どこまでプラスに働くか未知数です。

以上は「数十年後にもしかして起こる」という話ではなく、「10年以内に高い確率で起こる」変化です。10年というのはあっという間。日本の政府・企業は、少子化・人口減少がもたらす劇的な変化に備える必要があるでしょう。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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