消費税の政治経済学 税制と政治のはざまで 石弘光著 ~導入の度重なる失敗とその苦闘の歴史を整理する
菅直人副総理・財務大臣は、今後1年、歳出のムダ削減を優先し、消費税率引き上げに向けた本格的議論は2011年度以降とする旨を示した。半世紀以上続いた自民党政権下で既得権益化した歳出を徹底的に見直さなければ、国民からの支持は得られないと言いたいのだろう。
しかし、消費税を封印したままで、年金や医療などの社会保障制度改革や財政健全化策など責任のある政策を打ち出すことができるのか。10年度予算案の策定でも、無駄削減による歳出の組み替えだけでは財源は確保できなかった。子ども手当や高校授業料無償化などは、恒久財源になりえない埋蔵金と赤字国債発行で手当てされたが、さらにもう1年、埋蔵金の発掘に注力するということなのか。埋蔵金費消は、国債が新規に発行されないだけで公的純債務の増加に変わりない。結局、夏の参議院選挙でも消費税率引き上げに触れず、社会保障制度改革も財政健全化策も論じられないのか。
先進各国では、日本の消費税に当たる付加価値税が社会保障の重要財源として定着している。なぜ日本では支持が得られていないのか。本書は、旧・政府税制調査会の専門委員、後に会長として30年近く政策の現場で消費税にかかわってきた著者が、その疑問に答えたものである。福祉国家の財源として消費税の利用が不可避であることを理論的・政策的に示すとともに、導入の度重なる失敗とその苦闘の歴史を、導入前史から今日までの議論を通して整理する。
最初の挫折は1979年の大平政権の一般消費税導入の断念だが、興味深いのはこの時すでに「歳出のムダ、非効率の見直しによる歳出削減をまず優先せよ」という意見が主たる反論として現れていた点だ。近年も小泉・安倍政権において、税率引き上げは徹底的な歳出削減を行ってからとされたが、前述したとおり、民主党政権の菅氏からも同様の主張がなされている。無駄削減の必要性に疑問の余地はないのだが、日本の財政が抱える問題は歳出に比べ絶対的に歳入の規模が小さいことであり、無駄削減だけでは問題解決にならない。一方で、不況を大義名分に大規模なバラまき財政が繰り返されている。結局は選挙前の政治家の言い訳ではないのか、と評者は疑ってしまう。
国民の安心・安全確保には持続可能な社会保障制度の確立が不可欠であり、その財源として消費税を容認する人が増えている。評者の分析では、日本経済の構造問題の一つである過少消費は、社会保障制度の不備に根差す将来不安が大きく影響している。恒久財源を伴う制度改革を打ち出すことこそが、有効な景気対策になると思うのだが。
いし・ひろみつ
放送大学長。一橋大学、中国人民大学各名誉教授。1937年東京に生まれる。一橋大学経済学部卒業。同大学院に進み、博士課程中退後、一橋大学経済学部助手、専任講師、助教授、教授、学長を経る。2000~06年の間、政府税制調査会の会長を務める。
日本経済新聞出版社 2940円 286ページ
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