日本人がよく使う英語の挨拶が実は不自然な訳 簡単な言葉でも正しく訳せるとは限らない

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ちなみにこの種の「何」を主語にして聞く言いかたは、英語だけの特殊な発想法ではなく、ドイツ語やフランス語など、他のヨーロッパの言語にも共通しています。日本では「外国語」というと自動的に「英語」をイメージすることが多いのですが、英語は世界の言語の1つにすぎません。もっとさまざまな言語を視野に入れながら、言葉の世界の豊かさを考えていくのは大事なことです。

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ロシア語でも《Что привело Вас в Японию?》(シトー プリニエスロー ヴァスヴヤポーニユ)と言うことができますが、これは英語とまったく同じで、「何があなたを日本に連れてきたのか?」という意味です。

もっと面白い私の好きな言いかたでは《Каким ветром занесло Вас в Японию?》(カキーム ヴエートロム ザニエスロー ヴァスヴヤポーニユ)というのもあります。

「どんな風にあなたははるばる日本まで運ばれてきたのか?」といった感じで、日本語の慣用句「どんな風の吹き回しで」に妙に似ています。もちろんこれは半ば冗談で使ってください。

試験への正解を追い求めてしまう危うさ

閑話休題。いずれにせよ、今の英語教育では“Why did you come to Japan?” ではなぜダメなのか、感じ取れるようになるところまではなかなかいかないようです。おそらく試験問題に対する「正解」を追い求めるあまり、言葉によるコミュニケーションが実際にどのように行われるものなのかに注意を払う余裕がないからではないでしょうか。

ある言い方をしたら、相手がどんな気持ちになるかを理解する共感能力を育てなければ、良好なコミュニケーションは成立しません。そして、何をどう言うべきかについては、発話の場に応じて、いくつものさまざまな正解があるのです。世の中はグローバル人材に必要な英語力だとか、四技能だとか、議論がかまびすしいのですが、たった1つのフレーズの訳し方を見ても、それ以前の大事な問題がここにあることがわかるでしょう。

沼野 充義 名古屋外国語大学副学長

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ぬまの みつよし / Mitsuyoshi Numano

1954年東京生まれ。東京大学教養学部を卒業、ハーバード大学スラヴ語スラヴ文学科に学ぶ。東京大学教授を経て、2020年より名古屋外国語大学副学長。東京大学名誉教授。著書に『チェーホフ 七分の絶望と三分の希望』(講談社)、訳書に『ナボコフ全短篇』(作品社、共訳)、スタニスワフ・レム『ソラリス』(国書刊行会)など。

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