ネット中傷に「渦中の企業」はどう向き合うか 法規制強化だけでは片付かない深刻な問題

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同プロジェクトチームが6月に出した提言では「プロ責法における権利侵害情報の削除・発信者情報開示、民法上の損害賠償請求(中略)等があるが、被害者にとって実効性及び柔軟性ある対策とはなっておらず、特に匿名状況を悪用したネット上の誹謗中傷等による被害は深刻化の一途を辿っている」と指摘。「プロバイダによる迅速な削除対応の促進のため、法制度及びガイドラインの見直しを行う」としている。

冒頭に示したとおり、現行のプロ責法の開示手続きが複雑であるのは確かだ。ただ、これを簡略化することには「副作用もある」(ソーシャルメディア利用環境整備機構代表理事の曽我部真裕・京都大学大学院法学研究科教授)という。

制度設計の仕方次第では、「例えば悪徳商法への批判や注意喚起、企業の内部告発などのケースで、権力や巨大資本を持つ側による”犯人探し”も容易にしてしまう懸念がある。健全な議論・言論の場としての機能を失わないよう、気を付けなければならない」(同)。

ある種の「フェイク」が被害を拡大

そもそも誹謗中傷やプライバシー侵害の問題は、もはやSNSやコメント投稿サイトに限られた問題ではなくなっている。

昨今では個人のツイート等を抜粋し、「〇〇に批判が殺到している」「〇〇が炎上している」といった記事を作成・配信するニュースサイトも増えている。実態としてはごく少数の批判投稿しかないにもかかわらず「炎上」と取り上げているケースもあり、ある種の「フェイク」が被害を拡大させている側面もある。

「今後はSNSの運営企業だけでなく、メディアも巻き込んだ情報共有や議論を行っていく必要がある」(ソーシャルメディア利用環境整備機構専務理事の江口清貴・LINE執行役員 公共政策・CSR担当)。サービス運営者を対象にした法規制や業界ルール強化の必要性とともに、それを取り巻くメディア企業、そして利用者一人ひとりのモラルも問われる。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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