「何をしたいか」が定まってない人は大成しない 出口治明×尾原和啓「歴史がなぜ面白いのか」
出口:イスラム初の世襲王朝であるウマイヤ朝の創始者にムアーウィヤという人がいます。たいへん立派な人なんですが、この人のエピソードも本当に面白い。当時のイスラム国家は平等主義ですから、閣議もオープンに広場でやっていたと考えてください。でも、閣議ですからムアーウィヤが中心にいて、大臣が並んでいて、全部準備してあるわけです。誰が来てもいいし自由に意見を言ってもいいけれど、そんなことをする人はいません。
ところが、身なりの汚い若者がフラフラとやってきて、「話があります」と手を挙げる。大臣はムアーウィヤに目配せをして、「つまみ出しましょうか」と聞くのですが、「ええやんか。話してごらん」ということで、彼が話を始めます。「お前はなんで来たんや」と聞かれた若者は、「私は独身です。ムアーウィヤ様のお母様も独身と聞きました。私はお母様と結婚したいのです」と答えたのです。
尾原:は?
出口:「ついては、ムアーウィヤ様に仲人になってほしい」と。大臣は激怒して「放り出していいですか」というのですが、ムアーウィヤはにっこり笑って「なるほど。でも、お前は俺の母を見たことがあるのか。なんで結婚したいと思ったのか。もう虫歯で歯もないで」と答えます。すると、その若者は「お会いしたことはありません。でも、ムアーウィヤ様のお母様はたいへんお尻が大きいと風のうわさに聞きました」
尾原:フフフ(笑)。
一般論を聞くよりもエピソードのほうが腹に落ちる
出口:「私は大きいお尻の女性が大好きなんです」。それを聞いたムアーウィヤは、「なるほど。俺の親父もそうだったかもしれないな。よろしい、今度母に会ったら聞いてみよう。もう下がっていい」と答えたそうです。それを聞いていた大臣たちは、「ムアーウィヤ様は天性のリーダーだ、自分たちはとてもあんなに忍耐強く人の話を聞けない」と言ったという逸話が残っているのです。面白いでしょう?
尾原:めっちゃ面白いです、意外性もあるし。そこまで話が聞けることが大事ってことが、一発でわかります。
出口:リーダーはどんな部下の意見でもきちんと聞かなければいけない、という一般論を聞くよりも、こういうエピソードを知っていたほうが、はるかに腹に落ちる。これが歴史の醍醐味です。