外出自粛下で鉄道写真家は何を撮っていたのか スキルを増やせば自分の仕事の幅が広がる
これらのレンズは実車同様、遠近感のはっきりした標準レンズならではの表現(近いものは大きく、遠いものは小さい)になってしまう。しかし実車の鉄道車両を撮影している私は望遠レンズを使用することも多く、先頭から最後尾の車両まで大きく見え、長大編成の列車感を表現するのに向いている望遠レンズの圧縮感が好きだ。そこで模型撮影では邪道かもしれないが望遠レンズでの撮影を考えた。
まずはカメラ。ニコンフルサイズミラーレス1眼のZ7を選んだ。フルサイズで使用するのではなく、画面サイズをDX(APS-C)サイズに設定して1.5倍の望遠になるようにするためだ。レンズは“鉄ちゃん”におなじみの70-200mm f2.8。これに×1.4倍のテレコンバーターを装着する。そうすれば35㎜フルサイズ換算でなんと420㎜になる。「超望遠ズームレンズを使えば?」という声が聞こえそうだが、超望遠ズームレンズの最短撮影距離は概ね2m前後。いくら望遠にしても模型と離れすぎて大きく撮ることができない。対して70-200mm f2.8の最短撮影距離は半分の1.1m。さらに装着したテレコンバーターは最短撮影距離が変わらないので、これら組み合わせのおかげで超望遠なのに1.1mという最短撮影距離になり、Nゲージを望遠レンズ撮影のような圧縮感で表現できるようになった。
撮影用車両として最初に白羽の矢を立てたのはED75形700番台交流機関車と「レッドトレイン」こと50系普通列車用客車。私の実家がある秋田の1980~1990年代初頭の奥羽本線を彷彿させる国鉄形コンビだ。
ピントをずらして95枚撮影
セッティングしていざ撮影……、だが普通に撮影してはピントを合わせた場所以外は大きくボケてしまい、本当の意味のミニチュア写真になってしまう。そこでピントを先頭部から最後尾へとわずかにずらしながら1枚ずつ撮影することにした。大変な作業だが、Z7の「フォーカスシフトモード」ならカメラが自動的に撮ってくれる。他メーカーでも同様の機能が搭載されているカメラがあるので、もし興味があるなら確認してみるとよいだろう。
まずはピント位置の違う写真を95枚撮影した。さて、この95枚もの写真をどうするかと言うと誰もがご存じであろうレタッチソフトの「Photoshop(フォトショップ)」で画像加工をするのだ。作業手順を細かく説明すると大変なので割愛させていただくが、それぞれの写真のピントが合った部分だけを自動で合成するフォトショップの機能を使った。
ちなみにピントの合っている範囲を写真用語で「被写界深度」というが、この範囲内を1枚、または複数の写真に合成する作業のことを「深度合成」という。作業をパソコンに任せて数分後、ED75形機関車から50系客車の最後尾までピントが合った編成写真に仕上がった。ED75形機関車の顔しかピントが合ってない合成前の写真はミニチュア感丸出しだったが、深度合成をした全面ピントの編成写真になると途端に実物っぽく見えるから人間の目の錯覚というのは面白いものだ。
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