強まるマグロ包囲網、絶滅危惧種に指定も、欧州では不買運動も拡大中

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 さらに10年度からは、国内養殖品が増える。日本近海で取れた太平洋クロマグロの稚魚をいけすで2~3年かけて太らせる国内養殖は、海外の漁獲規制の高まりを受けて参入が相次いでいる。10年度は8000トン程度の出荷が見込まれ、「いけすの数を増やしたい」(日本ハム子会社のマリンフーズ)と意欲的な企業は多い。このまま膨らめば大西洋産の減少分を補えると思われた。

ところが昨年12月以降、その風向きは変わりつつある。

日本沿岸を含む中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)が、太平洋産の漁獲量増加を禁止することで合意したのだ。「今後、稚魚の漁獲は減らす必要がある。国内養殖の増加にもブレーキをかけてもらう」(水産庁資源管理部の宮原正典審議官)。

対応策として、すでに日本国内では完全養殖が同時進行している。マルハニチロホールディングスは13年度の初出荷を目指す。09年に国内養殖へ参入した双日も人工ふ化させた稚魚を育てている。とはいえ足元の国内養殖価格はキロ当たり2500円で、業者によっては採算割れとなっている。「魚体が大きくなるまでの歩留まりは1%未満」(マルハニチロ)といわれる完全養殖が軌道に乗るかはまだ不透明だ。

「環境保護団体はキャンペーンの対象を、陸上生物から海洋生物へ移している」と恐れる水産関係者は多い。3月のワシントン条約会議で大西洋クロマグロが否決されても、濫獲が続けば再び俎上に上がることは避けられない。今後は他海域のマグロも対象に浮上する可能性もある。マグロ包囲網は強まるばかりだ。

(前田佳子 =週刊東洋経済)

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