三菱地所がマンション「自主管理」を推す理由 管理のデジタル化で業界の課題を克服できるか

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むろん、アプリの導入によって管理組合の課題がすべて解決されるわけではない。管理費の請求がアプリ上でできるとはいえ、滞納した管理費の督促には、最終的には個別訪問をせざるを得ないからだ。

また管理組合総会の手続きはアプリ上ではできず、出欠票や議決権行使書の回収は引き続き人力で行う。こうした労力を嫌った管理組合役員のなり手不足は、アプリだけでは解決できない。イノベリオス側も、すべて自主管理に移行するのではなく、「マンション管理士が管理会社とは違った目線でサポートするなど、方策を考えている」(安藤取締役)とする。

デットストック化した物件を取り込む

とはいえ、マンション管理業のあり方には一石を投じそうだ。KURASELが照準を定めるのは、おおよそ総戸数70戸以下の小中規模で築年数が経過したマンション。さらに、「国内10万2000ほどある管理組合のうち、現在自主管理を行っているのはだいたい1割。まずはその1割に(KURASELを)使ってもらいたい」(安藤取締役)。2024年度までに全国3000組合での導入を目指す。

自主管理といっても、住民有志が熱心に管理をしている物件だけではない。管理委託費をめぐって折り合いが付かず管理会社が撤退した結果、自主管理に追い込まれた物件もある。管理会社が一度はさじを投げた管理不全マンションでも、アプリの導入なら採算ラインに乗る。デッドストック化したマンションを、再び市場に取り込む余地が生まれる。

コロナ禍では、管理員や清掃員といった感染リスクの高い職種の採用が一層困難になる。マンション管理で最大手の日本ハウズイングは、マンションやビルの管理員・清掃員など約1万人を対象に1人あたり最大3万円の特別手当を支給する。

人手確保や定着に向けた人件費の引き上げが待ったなしの状況では、管理会社自体の業務効率化も急がれる。アプリの導入は住民だけでなく管理会社自身をも救うことになるが、普及させるためには住民にどこまでメリットを訴求できるかがカギを握る。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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