三菱地所がマンション「自主管理」を推す理由 管理のデジタル化で業界の課題を克服できるか

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採算が取れなくなったマンションからは、管理会社が撤退することもある。業界紙であるマンション管理新聞が昨年に行った調査によれば、管理会社の7割以上が「採算の取れないマンションについては契約解除を申し入れることがある」と答えた。こういった状況を受け、イノベリオスはアプリを導入することで管理コストを削減し、適正な管理の継続を促す。

管理不全を解消するために、「自主管理」という大胆な提案を行った三菱地所。だが、マンション管理へのアプリ導入は、住民だけでなく管理会社自身も恩恵にあずかる。

イノベリオスによれば、マンション管理会社の業務は大きく3つに分かれる。管理組合の中心を担う理事会の運営サポート、会計業務、そして建物の清掃や修繕だ。「KURASEL」はこのうち理事会運営と会計業務を代替し、清掃や修繕は引き続き管理会社が担う。

これは管理会社にとって2つの点で朗報だ。1つは、管理会社自身の人手不足が解消されること。フロント(管理会社の社員)は一人あたり10棟前後のマンションを担当するが、住民からのクレームを受けるなどストレスが溜まりやすく、仕事の定着率は高くない。

現地に行くことも少なくないフロントにとって、営業エリアから離れた場所に立つマンションへの出張も負担だ。アプリの導入によって対面業務が減れば、フロントの負担軽減につながる。

日常の管理業務で利益が出ない

 もう一つは、不採算部門である日常の管理業務を切り離せることだ。人件費をはじめとする原価が高騰する一方、管理委託費の値上げは滞る。不採算マンションの中には、管理委託費の値上げを住民が渋った結果管理会社が撤退し、後継の管理会社を見つけることに苦労している物件もある。

大規模修繕工事は塗装や防水、設備など多岐にわたる。写真はイメージ(記者撮影)

管理業務の採算が良くない一方で、マンションの工事は管理会社にとっての収益源だ。とりわけ十数年に一度訪れる大規模修繕工事には時に億単位の費用がかかるため、貴重な収益機会となる。

ある中堅マンションデベロッパー系列の管理会社は、「日常の管理業務では利益はあまりない。その代わり、大規模修繕工事を受注した利益で埋め合わせる」と打ち明ける。管理組合がアプリを導入しても修繕工事は引き続き外注することになるため、収益源を確保しつつ不採算部門の切り離しが可能になる。

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