さまざまな課題を乗り越えて事業拡大を図ろうとしていたわけですが、翌年、なんと会社は売却されてしまいました。ヨーロッパに食品の拠点が欲しかったフィリップモリス社に企業買収されたんです。
突然知らされたうえに、5年でブレークイーブンにすればいいいというオファーも、1年でブレークイーブンにしろという方針に転換。一晩でヨーロッパのオーナー型企業から典型的なウォールストリート型のアメリカ企業に変わってしまったんです。
ドイツ人幹部は辞めてしまったので自分と従業員が残され、3週間で今後の戦略を考えてほしいと要求されました。結果、広告を全部やめ、プレミアム商品として売れる輸入スーパーだけに商品を置くことにして、二十数名いればOKという規模になりました。
残りの70人をなるべく関連会社で引き取ってほしい、それでもだめならアウトプレースメントのサービスと、退職者には給与保証をしてほしいとフィリップモリス社に求めました。そうしないと日本でのレピュテーションが下がるし、買収した途端クビなんて日本ではできない、と説得しましたね。
従業員全員とは朝8時から23時まで1週間かけて面接をやりました。こんないい退職の条件を勝ち取ってくれてありがとうと喜ぶ人もいれば、この先どうしようと涙する人もいて、一人ひとりの意思を尊重せねばということを痛感しました。
3ヶ月で全員の再就職先が決まりましたが、事業はフィリップモリスの食品事業部門であるクラフト・ジャパンに移行して会社を清算しました。清算の仕方も勉強になりましたね。フィリップモリスからは、君もうちに来いと言われました。
反感があったので行く気はなかったのですが、残った人たちが一緒に行こうと言ってくれたので移ることにしました。
(写真:田中庸介/アフロ)
日本コカ・コーラ株式会社取締役会長。1954年奈良県生まれ、同志社大学文学部卒業、米国コロンビア大学ビジネススクールにてMBA取得。77年ライオン入社、販売とマーケティング関連職を歴任。91年フィリップモリスの食品事業部門であるクラフト・ジャパン副社長、日本事業の統括責任者を務める。94年、日本コカ・コーラ入社、副社長コンシューマーマーケティングナショナルブランド担当。2001年社長就任。06年会長就任。08年NTTドコモ顧問就任。
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