トランプ大統領再選の可能性はもうないのか 勝敗を分けるポイントは明確になってきた

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大統領はこれまでもシャーロッツビル事件、モラー報告書、大統領弾劾裁判などさまざまな苦境をいくども乗り越えてきた。まだ可能性は残されている。

戦後、現職大統領で再選を果たせなかったのはジェラルド・フォード、ジミー・カーター、ジョージ・H・W・ブッシュの3人のみで、いずれも特殊な事情があった。

そもそもフォードはウォーターゲート事件によるニクソン大統領辞任を受けて就任しており、選挙で選ばれた大統領ではなかった。カーター政権ではいまだにアメリカ史の汚点として記憶されているイランアメリカ大使館人質事件が起きた。ブッシュはレーガン政権2期で副大統領を務めた後の実質政権4期目の是非を問う大統領選でもあった。

また3人の大統領に共通するのは景気後退期を選挙前2年間に経験し、かつ予備選で強敵と対戦を強いられたことだ。トランプ大統領は景気後退経験で類似しているものの、予備選で強敵が登場しなかった点が異なる。

トランプ大統領は選挙人制度と幸運頼み?

2016年大統領選と同様に、トランプ大統領は得票率でバイデン氏に劣ることは確実視されているものの、選挙人制度のおかげでカギを握るいくつかの激戦州で勝利すれば大統領選を制することが可能だ。

最終的に重要となる激戦州はラストベルト地域のウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニア、そしてサンベルト地域のアリゾナ、フロリダ、ノースカロライナといった6州などだ。現在、これらの多くの州でバイデン氏がトランプ大統領との対決で、6~9ポイントまで支持率の差を広げている。とはいえ、バイデン選挙陣営はこの支持率上昇は長続きしないと捉えている。2極化が進むアメリカ社会において選挙前に有権者は再び自らの支持政党の候補者支持に戻り、接戦になると予想している。

トランプ大統領には幸運が重なるとすれば、11月までにコロナ感染の第2波を最小限にとどめると同時に、ワクチンが想定以上に早く開発されることだ。そうなれば、選挙前には経済のV字回復に国民の期待が高まっている可能性もある。また、超党派で刑事司法制度改革法案を議会で可決するなど、トランプ政権下で人種問題解決に向けて大幅な進展があるかもしれない。敵に塩を贈ることになっても、これらアメリカ国民の誰もが歓迎する政策には、バイデン氏をはじめ民主党も賛同せざるをえない。

アメリカは不景気の最中にあるものの、NBCニュース・WSJ紙世論調査によると有権者は経済政策についてはいまだにバイデン氏(37%)よりもトランプ大統領(48%)に信頼を置いている。そのため、支持率低下に焦るトランプ陣営は大統領選に向け経済復興ストーリーを描こうとしている。6月半ば、トランプ政権は「再生(Renewing)、復活(Restoring)、再建(Rebuilding)」といったアメリカ経済復興について3Rのスローガンを打ち出し、劣勢挽回を狙っている。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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