パワハラで「全役員クビ」駅探vs株主の大バトル 委任状争奪戦は株主総会の前に事実上決着

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6月1日、駅探はIT企業のTOKAIコミュニケーションズとMaaSエンジンの開発やそのサービス化で業務提携を結んだと発表した。公共交通機関を中心とした乗り換え案内は電車も飛行機もバスも全部スケジュール通りに運行されているものだが、MaaSの時代には、カーシェアリング、レンタサイクル、自動運転なども含まれるようになる。ビジネスモデルが大きく変わる可能性がある。

TOKAIコミュニケーションズはゼンリンデータコムとも提携をしており、駅探を含む3社提携に発展する可能性もある。中村氏は「TOKAIさんは生活インフラ的な情報を持ち、ゼンリンさんは地図情報から自動車カーナビに近いところまで持っている。当社の公共交通機関の情報と組み合わせれば、非常によい補完関係になる」として、提携による企業価値向上に強い期待を示した。

駅探とCEHDがそれぞれ株主からの委任状集めに奔走する中、6月17日には議決権行使助言機関のISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)が駅探の提案に賛成し、株主提案に反対するという意見表明を行った。ISSは、「CEHDは合理的で詳細な経営方針を提案できていない」「経営陣の完全交代を求めることは現実的ではない」と説明している。駅探にとっては追い風となるはずだった。

事態が動いたのは株主総会の1週間前となる6月22日ごろだ。この段階で株主提案に賛同する議決権数が会社提案を上回ることが確実になったのだ。少数株主の議決権を集めてもCEHD側が抑えた議決権を超えるのは難しかったようだ。

6月24日、駅探は取締役選任に関する議案を取り下げると発表した。取締役選任に関する議案は株主提案だけになり、可決されればCEHDの提案する取締役が駅探の経営を担うことになる。この日、中村氏は株主総会および総会終了後の取締役会をもって代表取締役社長を退任すると発表した。

ウェットな部分の対立だった

TOKAIコミュニケーションズの福田安広社長は6月18日に行われた東洋経済の取材に対し、「株主提案をめぐる件について当社は発言すべき立場にはない」とした上で、「あくまで会社と会社の業務提携なので、進捗が遅れることがなければ(どちらになっても)構わない」とコメントしていた。ただ、「もし、経営陣が総入れ替えになったときにうまく引き継ぎができるだろうか」と心配していた。この点について、駅探の現経営陣はTOKAIコミュニケーションズとの業務提携の推進に向けた引き継ぎは協力していくとしている。

ISSが意見表明したように、今回の駅探とCEHDの対立は、どちらの経営方針が株主にとって有益かという経済合理性を問うものではなく、役員のパワハラや不遜な発言といった、ウェットな部分の是非を問うものだった。中村氏も、「両社の関係をどうすべきかを考えるやり方がよくなかったのだろう。感情的な部分があったのかもしれないとも思っており、そこは真摯に反省しなければいけない」と、6月18日のインタビューで話していた。

デジタルなインターネットの世界でも経営を行うのは生身の人間である。その感情を無視すると手痛いしっぺ返しをくらう。今回の一件は、そんな教訓を残した。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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