アップルがMacを「自社CPU」に切り替えるワケ iPhoneがもたらす新たな「ルールチェンジ」
例えばiPhoneではカメラの画質を高めるため、機械学習処理の得意なプロセッサーや高性能の信号処理プロセッサーを搭載し、基本ソフトのiOSがそれを使いこなすことで価値を高めている。
Macだけでそうした商品の作り込みを行うことは不可能だが、iPhone向けに開発するプロセッサーの設計、知見を生かせばMacを自社のコントロール下に置ける。その結果、Macは性能、機能、ハードウェア設計などの面でアドバンテージを得られる。
iPhoneからMacまで「一貫した操作性」が提供可能に
前述したようにiPhone、iPad向けに開発されたアプリは、そのまま独自プロセッサー版のmacOSで動作可能になる。アップルは開発者に移行ツールを提供。わずかな作業と手間で(ティム・クック氏によれば数日で)、新しいアップル製プロセッサー向けのプログラムを作成できるという。
アップルはこの発表で、マイクロソフトのOffice、アドビのLightroom、Photoshopといったアプリケーションが、アップル製プロセッサーで動作するデモを披露。既存のインテルプロセッサー搭載Mac向けのアプリケーションも、そのままで動作させることもできる。
またアップル製プロセッサーが内包する機能を積極的に用いれば、さらに高い性能を持たせることが可能だ。アップルが提供しているMac用アプリケーションは、動画編集ソフトのFinal Cut Proや音楽作成ソフトのLogic Proも含め、すべて新しいアップル製プロセッサーで動作するよう書き換え済みだという。
しかし、Mac向けにプロセッサーを独自開発する最大の利点は、iPhone、iPad向けの開発者が容易にMac向けの開発も行えるようになることだ。数年にわたってアップルはMac用アプリケーションのデザイン要素をiOS/iPad OSに近づけており、今年秋にリリース予定の新バージョン「Big Sur」では、iPad OSと見た目のディテールが大きく接近したほか、細かな操作感も近づけられている。
そのうえ、プロセッサーの基本構成まで同じならば、iPhoneやiPad向けに内蔵する機械学習処理向けプロセッサーやグラフィック処理プロセッサーを活用した開発成果を、そのままMacでも利用可能になる。
アップルは数年前から、この移行計画を進めていた。2年前にはiPhone向けに開発したアプリをMac向けに変換するための仕組みを発表。一方、iOSでファイルアプリ、iPad OSではトラックパッドに対応するなど、iPhoneやiPadがMac側に歩み寄る動きも重ねていた。
アップルは自社開発プロセッサーとすることで、独自性の高い製品開発が行える利点がある。ではそんなMac向けにアプリケーションを提供する開発者、そしてエンドユーザーにとっての利点とはなんだろうか。
今回の計画がうまく進めば、iPhone向けにアプリケーションを書くだけで、iPad、Mac、Apple Watch、Apple TVへとシームレスに商圏を広げていくことができる。
消費者にとっても、あらゆる場面にフィットするデバイスが境目なくつながることで、複数デバイスを“使い分ける”ノウハウが必要なくなるだろう。エコシステムを構成する3者がそれぞれにメリットを享受できる計画が目論見通りに実現すれば、“パーソナルコンピュータ”のジャンルでも、ルールチェンジ、イノベーションをもたらせるかもしれない。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら