新幹線vs航空、実は疑わしい「4時間の壁」の根拠 鉄道が3時間台でも「航空が圧勝」の区間も

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マスメディアで4時間の壁という言葉が取り沙汰されるようになったのは2010年。新大阪―鹿児島中央間の所要時間が4時間を切るという報道がきっかけだが、同区間の新幹線と航空のシェアは前述のとおりだ。

また、東京―新青森間を走る「はやぶさ」は、最も速い列車は2時間59分だが、はやぶさの中にも所要時間が3時間43分という列車もある。それでも東京―青森間は新幹線が優勢だ。櫛引教授は「この44分差を理由に新幹線を選ばないことはないだろう」という。

その意味では、3時間の壁や4時間の壁というのは、新幹線と航空のシェアの分かれ目というよりも、新幹線の利用者を増やすための宣伝文句程度に考えておいたほうがよいだろう。

「選択肢があることが重要」

利用者が新幹線か航空機かを選ぶ決め手は所要時間だけでなく、価格も関係してくる。大阪(伊丹)―鹿児島間における日本航空(JAL)の航空料金は、普通運賃は3万0860円だが、「特便割引」で1万7360円という便もある。

新幹線は、新大阪―鹿児島中央間の指定席料金と運賃の合計は2万2430円。3日前まで購入すれば割安な「e早得」なら1万9040円だ。通常料金では新幹線のほうが安いが、割引価格では航空機のほうが安い。最近は新幹線もネット割引が充実してきたこともあり、新型コロナウイルス感染終息後の需要喚起策として、新幹線もスピードだけでなく価格面を訴求してもよい。

過去には新幹線の開業によって、羽田―新潟間、羽田―花巻間、羽田―仙台間などの空路が姿を消した。しかし、櫛引氏は「利用者にとっては、移動の選択肢が存在することが最も望ましい」と指摘する。

2015年の北陸新幹線金沢開業によって、羽田―富山間、羽田―小松間の空路も利用者が激減している。しかし、北陸の自治体は羽田との空路維持に向けて、さまざまな施策を打ち出している。羽田便の縮小で空港機能が著しく低下すれば、地元経済への悪影響が大きいからだ。その意味では、4時間の壁が過剰にクローズアップされて空路が縮小されることは地方にはプラスにはならない。地方に住む人にとってはは、新幹線も航空もどちらも重要なのだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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