大国化した中国に日本はどう向き合うべきか 香港・国家安全法への対処が外交の試金石に

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そこで今回問題となるのは、香港の国家安全法だ。中国にとって香港の民主化運動は香港独立を目指すテロ行為でしかなく、封じ込めなければ台湾やウイグルなどへ飛び火しかねない。しかし、日本を含む欧米諸国からすれば、自由と民主主義という大原則が崩れてしまう本質的な問題である。

ここで日本政府はどう立ち回ろうとしているのだろうか。

6月18日未明、「香港に関するG7外相声明」が公表されたが、その内容は中国に対してかなり厳しい表現となっている。国家安全法について,「一国二制度の原則や香港の高度の自治を深刻に損なうおそれがある」と批判。さらに、「開かれた討議、利害関係者との協議、そして香港において保護される権利や自由の尊重が不可欠である」と強調したうえで、「中国政府がこの決定を再考するよう強く求める」と要求している。

香港・国家安全法が問う根本問題

外相レベルとはいえ、G7各国が歩調を合わせ、中国の対応を明確に批判した意味は大きい。関係者によると、今回の声明の発表に関して日本政府は水面下でかなり積極的に動いたという。

香港問題は、単純化すれば「自由・民主主義体制」か「権威主義体制」かの選択の問題であり、国家の根本問題でもある。2020年秋に予定されている立法院選挙に向けて香港情勢は緊迫し、昨年同様の混乱は避けられないだろう。また11月の大統領選を控え、トランプ大統領の中国批判がエスカレートし、米中関係も緊張を高めそうだ。

そこで日本がどういう対応をするかは、これまでの領有権問題などとは比較にならない重みを持っている。そこであいまいな態度をとれば、国際社会での日本の存在感はなくなり、当の中国からも軽く見られるであろう。かといって単独で突出した中国批判を展開しても、反発を買うだけで成果を得ることは難しい。

外交には原理原則とともに、いかに問題を解決し、国益を実現するかというプラグマティズムも不可欠であり、両者のバランスをうまくとっていくプロの技が重要だ。

日本に今できることは、TPP構想やインド太平洋戦略構想を提起した時と同様、多くの国を巻き込んだ戦略的取り組みを実現させることであろう。例えば、外相レベルの共同声明に続き、次は香港問題にテーマを絞ったG7首脳によるテレビ会談を呼びかけ、中国にメッセージを発信するという手もある。

中国の姿勢はかたくなで、動きは早い。残された時間はあまりないようだ。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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