想定外だらけ「次期米国政権」襲う4つの難題 これまでにないほどの危機に直面している

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縮小

2つ目の課題は、過去数十年で最悪の失業率となるであろうこの状況から、いかにして経済を立て直すかということである。伝統的小売業のような一部の産業では、新型コロナの第1波によって生じた損失を完全に回復することは困難であり、小売業は新たな形態を生み出す必要があるだろう。

2016年の大統領選挙では、民主党と共和党の双方が巨大なインフラプロジェクトを提案していたが、そこには交通インフラに関するものや、民主党では再生可能なクリーンエネルギーに関するものも含まれていた。経済を活性化させ、新たな雇用を創出するために、次期政権ではこうした計画の復活や拡大が必要になるのはまず間違いない。

深刻化する格差問題

次期政権における大きな課題の3つ目は、人種間の不平等、刑事司法、有色人種、とくにアフリカ系アメリカ人に対する警察の暴力の問題に対処することである。国勢調査局によると、アフリカ系アメリカ人の収入は、非ヒスパニック系白人の5分の3程度がやっとというところである。2018年の黒人世帯の平均収入は4万1400ドル(約450万円)で、白人世帯の平均収入は7万600ドル(約770万円)であった。

黒人と白人の貧富の差は、所得格差よりもさらに大きい。2017年の連邦準備制度理事会によると、アフリカ系アメリカ人の純資産中央値は1万7600ドルで、ヒスパニック系を除く白人の17万1000ドルに対して10分の1に過ぎなかった。

新型コロナは、とくに有色人種に大きな打撃を与えている。ニューヨークでは、黒人とヒスパニック系の死亡率は白人の2倍であり、シカゴでは黒人の死亡率は5倍にのぼる。1つの要因として、黒人は白人よりも健康保険への加入率が低いことがある(2018年のデータでは、 無保険者は黒人12.2%に対し白人7.8%)。こうした人種問題は、トランプ大統領と指名候補者のバイデンとの間で行われる大統領討論会において、ほぼ確実に中心的な問題となるだろう。

次期政権が直面する4つ目の大きな課題は、世界におけるアメリカの役割を再定義することである。トランプが再選されれば、彼は高い確率で「アメリカ第一主義」を継続し、2017年の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱や2020年の世界保健機関(WHO)脱退と同様に、国際協定や国際的機関からさらにアメリカを撤退させる可能性が高い。

バイデンが当選した場合、彼はアメリカの世界に対する関与を回復させ、そして、コロナウイルスとの戦いや、雇用創出に向けたさらなる輸出市場開拓のために、世界各国と協力しようとするだろう。また、中国の台頭に直面している状況にあって、アメリカの国際競争力を高めるために、国内のインフラ、教育、研究開発、技術力の向上を図ろうとするはずだ。

ノーベル賞受賞物理学者のニールス・ボーアが1971年に皮肉として記したとされる言葉に「“予測”、とりわけ“未来”の“予測”は非常に困難だ」というものがある。11月のアメリカ大統領選が近づく中、確かにその通りの様相を呈してきた。コロナウイルス、経済、人種問題、外交問題などのいくつかの変数は、ホワイトハウスだけでなく上院や下院の選挙結果に間違いなく影響を与える。しかし、選挙結果は不確かかもしれないが、来年1月20日からのホワイトハウスの主が誰になろうと、その人物が大変な仕事を背負い込むことになるのは確実である。

グレン・S・フクシマ 米国先端政策研究所(CAP) 上級研究員

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Glen S. Fukushima

ワシントンD.C.のシンクタンク「米国先端政策研究所(CAP)」の上級研究員。カリフォルニア州出身で、アメリカ合衆国通商代表部で対日と対中を担当する代表補代理や在日米国商工会議所の会頭を務めた経歴を持つ。また、ハーバード大学の大学院生のときには、エドウィン・ライシャワー教授、エズラ・ヴォーゲル教授、デイヴィッド・リースマン教授の助手を務めた。

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