ヤマトHD、「宅配便急増」でも喜べない深刻事情 消えぬ現場の不安、大規模リストラ不可避に

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ところが、ヤマトの現場からは将来を不安視する声が絶えない。ヤマトHDのある中堅社員は「当社の経営陣は何をしたいのか、さっぱりわからない。ここ(ヤマト)で働いていても先はない」と語る。コロナ特需で荷物量が回復しても、長年の経営課題が払拭されていないためだ。

ヤマトHDの2020年3月期は、営業収益が前期比0.3%増の1兆6301億円に対し、営業利益は同23.4%減の447億円と大幅減益に終わった。契約社員ドライバーの増員などによる人件費の増加が響き、営業利益率はわずかに2.7%にとどまった。ライバルであるSGホールディングスの6.4%、日本郵便(郵便・物流事業)の6.9%との差は歴然としている。

ヤマトは「自前主義」を貫くが…

経営の効率性を表すROE(自己資本利益率)もヤマトHDの4%に対して、SGHDは12.3%、日本郵便は10.2%と、こちらも大きな差がある。

これらSGHDや日本郵便との差は、柔軟な配送体制の有無が影響している。例えば、SGHDと日本郵便は、近年荷物が増えているEC関係の荷物を中小事業者に配送委託する仕組みを確立。ECの荷物は配送単価が低く、SGHDと日本郵便は荷物量の増減に合わせて外注ドライバー数を変動させるなど、コストを柔軟にコントロールしている。これに対して、ヤマトはEC関係の荷物もセールスドライバーが届ける「自前主義」を貫いてきた。

2017年には人手不足を背景に、引き受ける荷物量の抑制(総量規制)と配送料の値上げを行った。それによって多くの顧客が離反し、その後も荷物量の回復が思うように進んでいない。ヤマトの荷物量は2017年3月期の18.6億個をピークに、18.3億個(2018年3月期)、18億個(2019年3月期)、17.9億個(2020年3月期)と減少傾向が続いている。

加えて、上昇し続ける人件費も利益を圧迫している。2018年から荷物量の増加を見込んで午後の配送に限定した契約社員ドライバー「アンカーキャスト」の採用・増員を進めてきたこともあり、ヤマトHDの2020年3月期の人件費は8490億円で、売上高の52.1%を占める。売上高に占める人件費の比率は、SGHDが34.5%、日本郵便は59.1%だ。

一方で、従業員1人あたりの売上高は、ヤマトHDが721万円なのに対し、SGHDが2270万円、日本郵便の郵便・物流事業が2164万円(いずれも2019年3月期)。ヤマトHDの経営効率の悪さが見て取れる。

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