日本中小企業政策史 清成忠男著 ~レベルの高い中間多数派が日本経済の成長を支えた
いま書かれるべきテーマが、もっとも書くにふさわしい人によって著された。本書を読み終わったとき、日本の中小企業の歴史と現在が明瞭に視界に入ってきたのである。
著者はいわゆる二重構造論をはじめ、多くの論者が所与としてきた「思想」を、実証によって是正してきた人である。本書も戦後の中小企業に関する考え方と政策の変遷を点検しながら、中小企業「問題」の所在とその意味をとらえ直し、市場経済にかかわる「論」のあり方にまで言及し、停滞する今日の状況に深い示唆を与えている。
本書は前半で、中小企業「問題」の発生から、中小企業庁が設置された経緯を通して、政策立案の背景を概観しているが、その中で浮かび上がってくるのは、学者と政策立案者の「思い込み」である。そこには中小企業についての「事実認識の違いのみならず、論理の違いに依存」した「齟齬」があった。一方に弱者論があり、他方に優良企業論があった。現実の中小企業はその中間帯に位置しているのが多数派で、その「レベルの高さ」がこれまでの日本経済を支えていたのではないか、という著者の見解に評者は納得する。
過去の政策に即していえば、中小企業は大企業と比べ遅れており「過小・過多」である。それゆえ近代化を促進するとして、業種別に小さな企業を集約化(グループ化)し、「適正規模」とし生産性を向上させる、といった施策があらわれたのは弱者論を背景としている。
もちろん現実には何をもって「適正」であるのか、ついにはわからなかったし、「業種」も機能の集積が進展することによって、その対象は確定できなかった。つまり「現場」がわからないままに、法がつくられたのだ。