原油価格が再び「急落する懸念」はないのか 産油国が供給を絞っても価格急回復はムリ?

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シェールをはじめとした生産の減少が続く中で、需給は徐々に引き締まっていきそうだ。だが、需要の低迷が続いている間はそのペースも鈍く、在庫も原油と石油製品の合計で見る限りでは、そう簡単には大幅な取り崩しには転じないだろう。

5月28日に発表された在庫統計では、原油が市場の取り崩し予想に反して793万バレルの積み増しとなる一方、クッシングの在庫は340万バレルと、3週連続で大幅な取り崩しとなった。

石油製品に対する需要は再び減少、在庫も原油と石油製品の合計では1400万バレルを超える大幅積み増しとなった。貯蔵施設の容量不足の問題は順調に解消に向かう一方、足元の供給過剰は続いているという足元の複雑な現状を、如実に物語る結果
になったということができるだろう。

中国の景気減速や欧米との緊張の高まりに警戒が必要

また需要面に関しては、中国の更なる景気減速や欧米との緊張の高まりが、新たな不安材料となるシナリオに注意が必要だ。中国は5月28日に閉幕した全国人民代表大会(全人代)で、今年度の経済成長目標の設定を見送る方針を打ち出したほか、香港に対して「国家安全法」の導入を決定した。

これは中国政府が新型コロナウイルス(COVID-19)の経済への影響が大きく残る中、経済成長目標を達成するためのインフラ投資や財政支出を無理に行うことはしない一方、「香港の支配」に関しては一歩も譲らないという姿勢を明確に示したことに他ならない。

このほか将来的に計画経済に戻ることはないとの姿勢も示しているが、これも言い換えれば、以前のように政府が経済成長を押し上げるために積極的な後押しをすることはなく、ある程度は市場原理に任せるということなのだろう。つまりはコロナの終息後も、経済成長のペースが以前ほど高いものとはならないことを意味している。中国経済の高成長とそれに伴う需要増加は、常に原油市場の大きな下支え要因となってきたが、今後は大きな期待を掛けることは難しくなる。

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一方で香港に対する支配を強化しようとする方針は、この先欧米との緊張をさらに高める恐れがある。アメリカは民主主義保護の立場からこの問題を看過するわけにはいかず、早速香港に対する優遇措置を停止、当局に対して制裁を科すと明らかにした。中国も、自国の政治体制に直接手を突っ込むような圧力に対しては、断固とした態度を取る可能性が高い。

もし中国がアメリカに対して何らかの報復措置を打ち出すようなことになれば、緊張が高まる中で、景気の先行き不透明感も一気に高まることになるだろう。また新型コロナウイルスに関しても依然十分な注意が必要だ。中国は感染の拡大を、他よりも一足も二足も早く封じ込めることに成功したが、それだけに逆に第2波、第3波の影響が他よりも早く表れてくることも考えられる。

OPECプラスの減産継続やシェールオイルの生産減少によって、いくら供給が大幅に落ち込んでも、肝心の需要がしっかりと回復してこないのであれば、需給もそれほどには引き締まらず、価格の低迷が続くことになる。4月あたりまでは、「早ければ年末にかけて、遅くとも2021年前半には需要もしっかりと回復する。

一方で生産の再開が需要の伸びに追いつかず、ボトルネックの発生で需給が一気に逼迫、状況次第では70-80ドル台までの急伸もあり得る」と見ていた。今でもなおそのシナリオが現実のものとなる可能性はなお高いと考えているが、中国をはじめ世界的に需要低迷が長引くなら、実現はかなり先の話となるのかもしれない。原油価格はまだかなりの期間、30ドル台前半から半ばを中心としたレンジ内で、株価の動向なども睨みながら不安定な上下を繰り返す展開が続くことになりそうだ。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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