「新型コロナ危機だけで恐慌など来ない」ワケ 日本を含めた先進国ははむしろ焼け太りに

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ウィルス禍による感染者数や死亡数でみたダメージは、先進国で大きく新興国で小さい。だが、それにもかかわらず、新興国の経済は先進国におけるよりはるかに大きな苦境に陥りつつある。彼らの通貨は下落し交易条件も急速に悪化している。

その意味では、今回のコロナ禍から生じる経済的ロスについては、その国際的な再分配こそが最大の問題なのではないかと筆者は思っている。

世界全体における経済的ロスそのものは、主として先進国経済の急ブレーキで生じたものだ。だが、そのロスの相当部分は国際的な交易条件の変化を通じて新興国の人々に転嫁される。一方で、資産価値という観点からは先進国の富裕層に「焼け太り」とすらいえる効果をもたらしつつある。

先進国の株式市場と通貨の底堅さは、世界恐慌のリスクを小さくする一方、コロナ禍による経済的ロスの再分配という点で、新興国に暮らす人たちに「割を食わせている」ことを示すものでもある。今回のコロナ禍がもたらす最大のリスクは、世界恐慌の再来などではなく、窮乏に追いやられた新興国の人々の絶望と不信から来る暴力的爆発だろう。

人々の自律で感染拡大を防いだ日本は評価される

今回の「コロナとの戦い」は、まだまだ続くはずだ。十分な量のワクチンと治療薬が準備できない間は、手探りの経済再開だけが私たちが取り得る唯一の途だからだ。

とはいえ、これまでに人類を襲った数々の感染症と比べれば、伝染性という点でも致死性という点でも、COVID-19は人類を滅亡の危機に追い込むほどの難敵ではないように思える。もちろん、医療技術の進歩や防疫知識の普及に助けられている面もあるだろう。

今回のウィルス性肺炎で激しい苦しみを味わった方々や亡くなった方々のことを思うと言いにくいが、グローバル化した21世紀の世界が初めて直面することになった衝撃的パンデミックが、COVD-19よりも恐ろしいものであった可能性もあるのではないか。

そして、人類はCOVID-19に鍛えられていくらかは賢くなったと思う。いくつかの偶然に助けられたとはいえ、日本は警察力や軍隊を出動させなくても、人々の自律の心により感染症の勢いを止めることができることを示した。こうした日本の経験は、やがては評価されるときが来るはずだ。それは、COVID-19のような、あるいはCOVID-19よりも恐ろしい感染症が現れたときにも役立つはずである。

言うまでもないことだが、後始末の問題は残る。忍耐と自粛の影響を大きく受けた人たちへの支援は必要だし、そのためには、財政と金融あるいは政府と中央銀行の関係も今までと同じというわけにはいかなくなるだろう。

ただ、その話は、このコロナ禍に対する私たちの心の揺れが収まったころに始めることにしたい。コロナウィルスを怖れる心が暴走して自由や民主主義を壊してしまうことの悲劇に比べれば、政府と中央銀行の関係など、私たちが賢くあれば解決可能な課題の一つにすぎない。

岩村 充 早稲田大学名誉教授

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いわむら みつる / Mitsuru Iwamura

1950年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、1998年より2021年3月まで早稲田大学教授。2021年4月より早稲田大学名誉教授。2017年7月に(社)自律分散社会フォーラムを設立し代表理事に就任。『国家・企業・通貨』(2020年2月・新潮選書)、『ポストコロナの資本主義』(2020年8月・日本経済新聞出版)など著書多数。

 

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