聖マリアンナ病院、今も終わりが見えない現実 コロナと闘う医療現場「あと1年くらいは続く」
藤谷さんが急に表情を変えた。休憩室でマスクをずらしたまま会話をしている看護師たちを見つけたからだ。
「話すときはマスクをして!」。藤谷センター長は看護師たちに近づき注意した。「そういう気のゆるみが院内感染を起こすからね」。
休憩室の一角にあるボードには、先月亡くなった患者の家族から送られてきた手書きの手紙が貼ってあった。「こんなに辛いことが起こるとは、思いもよりませんでしたし、いまだ実感が持てずにいます」。家族の重い気持ちとともに、医療スタッフへの感謝の言葉もしたためられていた。
ぬぐえぬ無力感、蓄積するストレス
ナースステーションにあるモニターの画面は、壁の向こう側のICU内にいる患者の様子を映し出している。
「全然良くなってないです。見かけ上は良くなってますけど」。応援のためセンターに派遣された小児科医はコンピューターの画面に映し出されたデータを見ながら、そう語った。
「数週間ずっと、症状が何も変わらなくても、急に容体が悪化するというのはよくあります」と、藤谷センター長は自分のオフィス内を歩き回りながら語った。「治ってくれるのなら頑張ろうと思うけど、すごく力を注ぎこんできたのに亡くなってしまったら、無力感を感じる。みんな治すつもりでやっているんだから」。
ICUで治療を受けた患者のうち、これまでに1人が補助器具なしで呼吸できるようになった。しかし、無事にICUを出たとはいえ、完全に回復するかどうかはまだ分からない。
藤谷センター長は、4月に自殺したニューヨークの救急医について語った。その女性医師は何十人もの新型コロナ患者が死んでいく姿を目の当たりにしたという。
「こんな状態が2カ月、3カ月に及んでいるから、かなりストレスはかかっていると思う」と、藤谷さんは言う。
正午過ぎ、前の晩からの徹夜勤務を終えた森川大樹医長は、東棟のコンクリート階段を上り、壁に大きなスクリーンがかかる会議室に入った。各科の責任者が、ここで新型コロナへの対応状況を報告し合う。
感染した疑いのある患者2人について、やり取りが始まった。「2人ともマイナス(陰性)でした」。「じゃぁ、もうロールアウト(一般病棟に移す)して大丈夫?」
「1人は大丈夫なんです」と森川医長が答える。「けれど、もう1人は濃厚接触者といた人なので、すぐには除外できません」。
会議を主催していた藤谷センター長が、その1人をセンターに残すという指示を出した。