「遊びの時間が足りない子」の結構残念な行く末 子どもでいられる時間の重要な意味と意義

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幼稚園や学校では、学科の勉強がますます早期に始まり、テストでよい成績を取ることに焦点を当てた授業を増やし(座っている時間を長くし)、タワー作り、鬼ごっこ、お店屋さんごっこなどをする「遊びの時間」がどんどん減っている。ほかにも現代的な社会の力が、遊びの領域を侵害している。テレビやネット、ゲームなどが、子どもの生活と心のなかで幅をきかせてきたからだ。

習いごとや勉強が、有害なわけではない。しかし、それが遊びとどんどん置き換わっていくと、本当の問題が現れる。遊びは、人間や他の哺乳類の適切な発達に、なくてはならないものだからだ。遊びたいという欲求と衝動は、根深い原始的な哺乳類の衝動で、生存や仲間とのつながりへの本能的な衝動と同じく、脳の本能的な部分に関わっているからだ。

「ただ遊ぶ」ことの重要性

精神科医で「遊び」の研究者でもあるスチュアート・ブラウンによると、死刑囚監房にいる殺人犯たちの小児期には2つの共通点があるそうだ。1つは彼らがなんらかの形で虐待されていたこと、そしてもう1つは、子どもらしく、遊ばせてもらえなかったことだ。

『「自己肯定感」を高める子育て』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

この研究は、小児期をピアノの稽古や科学キャンプ、学習塾などの時間ばかりに費やすのではなく、子どもが子どもらしく「ただ遊ぶ」ことの重要性を指摘している。

音楽や科学や学業はもちろん大切だし、テレビやネットを見たりすること、プログラミングをする時間にも意味がある。当たり前だが、わたしたちは子どもが技能を習得することに反対してはいない。特別な才能への深い情熱があるなら、その情熱を追いかけるべきだ。

しかし、だ。想像したり、好奇心を働かせたり、単純に遊んだりする機会を奪ってはいけない。それらはすべて、子どもが成長し、発達し、自分を見つけるのに役立つのだから。

こんなふうに考えてほしい。自由な遊びは、「自己肯定感を育てる活動」と言える。自由な遊びは、体系化されたスポーツとはまったくことなる。どちらにも、子どもの生活のなかで役割がある。運動競技では、一方のチームが勝ってもう一方が負けるというルールと共通の枠組があり、善悪を判断する感覚が身につく。自由な遊びの時間を持たせると、子どもは文字どおり、自由に自分の想像力を探れるのだ。

ダニエル・J・シーゲル UCLA医科大学精神科臨床教授

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Daniel J. Siegel, M.D

CLAマインドフル・アウェアネス研究所取締役、マインドサイト研究所専務取締役も務める。ハーバード大学医学大学院卒業。『しあわせ育児の脳科学』(早川書房)、『脳をみる心、心をみる脳』(星和書店)、『子どもの脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)など、育児と子どもの発達に関する多数の著書があり、世界中で講演やワークショップを実施している。妻とともにロサンゼルス在住。

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ティナ・ペイン・ブライソン 児童青年心理療法士

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Tina Payne Bryson, Ph.D.

カリフォルニア州パサデナのザ・センター・フォー・コネクションの専務取締役として、子育てに関するカウンセリングや児童・青年のセラピーを行う。また、マインドサイト研究所の育児部門責任者も務める。南カリフォルニア大学で博士号を取得。『しあわせ育児の脳科学』(早川書房)と『子どもの脳を伸ばす「しつけ」』(大和書房)でダニエル・J・シーゲルの共著者となった。ロサンゼルス近郊に、夫と3人の子どもとともに暮らしている。

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