「アビガンは、本来の適応症である季節性インフルエンザに対する確かな有効性を証明できませんでした。そのうえ、副作用として催奇形性(胎児に奇形を及ぼす危険性)があったため、本来なら承認される条件を満たしていない薬だった。それなのに、『既存の薬とは違うメカニズムでウイルス増殖を抑えるので、ほかのすべての抗ウイルス薬が効かないような新型インフルエンザがはやったときに試してみる価値がある』という、極めて特殊な条件で承認されたのです。
季節性インフルエンザにすら十分に効くことを証明できなかった薬を、承認薬という言葉でひとくくりにして、夢の新薬のように言うのはおかしいと思います」
「これで承認していいのか」 審査で異論次々
アビガン承認の経緯をおさらいすると、次のようになる。
薬機法(旧薬事法=医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づいて医薬品の調査を行う独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)は2014年1月、その審査報告書で、季節性インフルエンザについての「申請効能に対する本剤の承認は困難」という考えを示した。つまり、確かな効果を確認できなかった。
次の段階、厚労省の薬事・食品衛生審議会はどうだったか。
同審議会は2014年3月、アビガンには既存薬とは違うメカニズムでウイルス増殖を抑える仕組みがあり、2010年の鳥インフルエンザなどのように既存の薬が効かない新型インフルエンザなどが発生したときのリスクに備えるため、として承認をした。ただし、「通常のインフルエンザウイルス感染症に使用されることのないよう厳格な流通管理および十分な安全対策を実施する」という厳しい条件が付く。結局、国からの要請がない限り製造もできない薬になった。だから今でも一般には流通していない。
当時の審議会について、隈本教授は次のように話す。
「今までにも委員からの疑問がスルーされたことはありますが、有効性や安全性が確認されていないことを複数の委員が明確に指摘し、これで承認していいのかとまで言っている。そんなの、見たことがありません」
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