■チョコ携帯が示す未来
携帯電話の「中核価値」は必要な時にいつでも通話やメールなどでコミュニケーションが取れることだ。中核価値を実現するために欠かせない「実体」は、どこでもつながることや、電池の持ちがいいこと。メールなどの入力がしやすいことなどである。カラーバリエーションや、デザインは、中核の実現には影響しない付加価値である「付随機能」である。
付随機能での差別化は大きく分けて二つの方向性がある。一つは、通話やメールなどのコミュニケーションとは関係のない、カメラの性能やハイビジョンムービーなどのデジタル技術を極限まで高める方向だ。もう一つは、au(KDDI)のiidaブランドが示す、「持っていて気持ちいい」や「上質感が伝わる」という携帯電話のデザイン性を高める方向性だ。
しかし、今回の「チョコ携帯」は同じ「デザイン」でも全く違った方向性を示しているのではないかと考えられる。東京ウォーカーの記事でインタビューを受けた購入客は、「携帯電話」を購入しているのではない。「Q-pot.」の「携帯機能付アクセサリー」を購入しているのだ。つまり、「中核」は「お気に入りのデザインであること」であり、「実体」が「通話やメールなどでコミュニケーションができること」と、価値構造が逆転しているのだ。
いやいや、今までにも、ドコモの「プラダフォン」や、ソフトバンクにもアルマーニがデザインした携帯があるではないかとの論もあるだろう。もう一度画像を見て欲しい。単なる携帯電話という存在を遥かに超越している、オソロシイまでの質感である。
チョコ携帯は何を指し示しているのか。先の女性購入客の心理を考えれば、「できれば2台欲しい」ではないだろうか。チョコレート色と、ストロベリーチョコ色の2色があって、そのどちらも魅力的だ。「デザイナーがデザインした携帯電話」であれば、多少バリエーションやカラーが違っていても1台あれば十分だ。しかし、「アクセサリー」であれば、気に入ったデザインがあればあるだけ欲しくなる。しかも、昨今の携帯電話は、カードを差替えれば複数の機種を使うこともできる。(auはショップでの手続きが必要)。
さすがに価格は6万円台後半から7万円台だと、気軽に何台も買えない。しかし、例えば800万画素のカメラ機能や3.0インチの液晶画面などのスペックを下げればもう少し価格を下げることもできる。アクセサリーに最高のスペックを求めはしないだろう。
もしこれが5000円だったと想像してみてほしい。何台も購入する女性の姿が思い浮かぶ。彼女はその日の気分によって使い分ける。彼氏に会う日は、勝負携帯。友達と遊ぶ時は、かわいい携帯。仕事の時は、すっきり携帯。結婚式などのパーティーでは、デコデコ携帯……。
デザインを楽しむアクセサリーとしての携帯電話。それを複数使い分ける。コモデティー化した果ての携帯電話は、既にコミュニケーションツールとしての存在ではなくなる。そんな可能性を、チョコ携帯が示しているように感じた。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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