新幹線10年目の青森、ねぶた中止で試練の夏 暖冬とコロナが影、危機の1年どう乗り切るか

✎ 1〜 ✎ 45 ✎ 46 ✎ 47 ✎ 最新
拡大
縮小

だが、このころすでに、暖冬が市内に影を落としていた。2019年の年末は20cmほどの積雪があり、市民は「正月にしては雪が少ない」と安堵していた。しかし、雪が1m積もることも珍しくない1月に入っても、まとまった雪は降らず、雨まで混じった。

市民の安堵は不安に変わった。豪雪は市民を苦しめるが、除雪作業などによって地域経済が回る側面もある。何より、近年は雪を楽しむ外国人観光客も増えていた。2月上旬に寒波が入り、積雪が30cmほどに達したことがあったが、冬は足早に過ぎ去った。

そんな中でも、新幹線をめぐる新たな動きがあった。時速360kmでの営業運転を目指すJR東日本は2020年2月、試験車両「ALFA-X(アルファエックス)」を初めて北海道新幹線区間で運行させた。この時期、すでに新型コロナウイルスの影響が各地で深刻化していたが、青森県内はまだ感染者の報告がなかった。街中でも駅前でも、旅行者の姿を多少、見かけた時期だった。 

やがて、事態は急転する。3月下旬、青森県内でも感染例が報告され、地域社会全体が厳戒態勢に入った。4月8日、青森市や青森商工会議所が構成する青森ねぶた祭実行委員会は、8月の祭りの中止を決定。半ば予期された事態とはいえ、市内には、足下も空気も揺らぐような衝撃が走った。

太平洋戦争中ですら開催された年があるほど、市民の暮らしに根ざした祭りだ。毎年この時期、青森港のベイエリアで建設工事が始まる「ねぶた小屋」の団地「ラッセ・ランド」は、作業の途中で解体された。

「何も残らないまち」

青森市内にはかつて、「連絡船とねぶたを取ったら何も残らないまち」という自嘲があった。大人たちがしばしば、そう口にする姿を見て、10代のころの筆者も「そうなのだろうか」と思いながら、それでも日々、青森港に出入りする連絡船や汽笛と、ねぶた囃子に親しんでいた。

青森市中心部の略図(地理院地図から筆者作成)

裏返せば、それほどまでに深く強く、この祭りは市民の意識と日常に大きな比重を占めている。筆者が勤務する学校法人も毎年、祭りに出陣し、ねぶたをこよなく愛する学生たちが、真冬から囃子の練習を欠かさない。

間もなく、青函連絡船は姿を消し、この自嘲も聞かれなくなった。だが、青森市は今年、少なくとも戦後初めて、「連絡船も、ねぶたもない年」という試練に直面した。祭りという最大の心の支え、収入の柱を失った状態で、市内の飲食・宿泊・観光業界は、旅行者の激減や4月以降の営業自粛要請に対峙してきた。

次ページ昨年まではクルーズ船でにぎわった
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT