経済再開へ動き始めた欧州「出口戦略」の現在地 総論賛成でも各国の対応には温度差

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ウォーターフロントに設置された「温室」は、小さな家の形をしたお洒落なデザイン。周囲の景観を意識したものだ。内部にはテーブルが置かれており、3人まで食事を楽しむことができる。テレビ局の取材に答えた来店客の一人は「夏になったら暑いかも」と笑うが、6月まで予約が埋まっているという。

「ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)」を尊重し、温室は1.5メートルの間隔が保たれている。料理を振る舞う際には、日本の炉端焼き店で見かけるような長い板に乗せるなどの工夫も凝らす。

周囲の圧力に屈したメルケル首相

こうした中、欧州随一の経済大国、ドイツは規制緩和へ一段とアクセルを踏み込んだ。同国のアンゲラ・メルケル首相は6日、大規模な商店などの営業を許可する、新たな緩和策を発表した。同首相がドイツ16州の州首相とのビデオ会合後、明らかにしたものだ。

ドイツはすでに4月中旬から規制緩和に乗り出していた。子どもの遊び場や美術館、博物館の一部で再開が認められ、教会でもミサが入場制限付きながら行われるようになった。4月20日からは、面積800平方メートル以下の小規模な店舗に限って営業再開が許可された。首相と州首相との合意を受けて、今後は規模の大小にかかわらず、商店、ホテル、レストランなど、すべての営業が再始動する見通しだ。

同国政府は、衛生面での管理や、最低でも1.5メートルの間隔を空けることなどを引き続き要求。向こう7日間で人口10万人当たりの感染者数が50人を上回った地域には新たな制限を導入するなど、感染率を監視する方策を打ち出した。

複数の報道によれば、メルケル首相も自らが所属するキリスト教民主同盟(CDU)の幹部との5日の会合で、「新たな緩和に踏み切りたいという大きく、明確な希望がある」と認めていた。だが、隣国フランスのメディアは「メルケル首相が地域のプレッシャーの下、緩和を加速」といった見出しを掲げるなど手厳しい。

ECDCによると、ドイツの1日当たりの新規感染者数は3月中旬以降、1000人を上回っていたが、5月に入って同水準を下回る日が続くなど低下傾向にある。このため、一部の州首相が、経済活動の大幅な緩和に慎重な姿勢を示すメルケル首相への反発を強めていた。

特に同国最大のバイエルン州のマルクス・ゼーダー首相は、これまでメルケル首相と足並みをそろえていたが、同州は観光産業に大きく依存していることもあり、ここへきてホテルの営業再開の準備を進めていた。

野党の自由民主党やドイツのための選択肢(AfD)も「メルケル首相は封鎖解除に弱腰だと批判しながら“休戦協定”を破棄」(仏日刊紙「ル・フィガロ」電子版)。同首相は周囲の圧力に屈した格好だ。

イギリス、ドイツ、フランス、スペイン、イタリア5カ国の主な株価指数の値動きを見ると、ドイツのDAX40の好パフォーマンスが際立つ。3月安値からの上昇率は5月6日時点で25.6%。中国への輸出依存度が高く、同国景気の立ち直りに対する期待や経済活動再開の動きなどが下支えするが、市場関係者には「期待先行」との見方が少なくない。

「政治的な必要に迫られた豹変」(仏日刊紙「ル・フィガロ」)と揶揄される、メルケル首相の新たな出口戦略への評価はきわめて難しい。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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