「コロナ危機」に直面した時に必要な8つの視点 経営学の視点から政府の対応を考える

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政府の対応を見ていると、アベノマスク配布をめぐる騒動、早急な緊急事態宣言の発出が必要だという外部の声をなかなか受け入れず後手に回った対応、担当大臣が官僚の用意した回答を読み上げるという中間管理層におけるリーダーシップの不在、首相の記者会見からは新型コロナ問題対応のビジョン・戦略が不明確など、コッター教授の掲げる8つの「つまずきの石」がゴロゴロと転がっている。

これを解決するには、コッター教授の掲げる8つのステップを1つずつ実行していく必要がある。

第一のステップは、危機感を高めることである。大部分の国民は強い危機感を持っているが、副総理が富裕層は10万円を受け取らない人もいると話したり、国民と政府の間での危機感に温度差がある。今さらではあるが、政府のメンバーは、医療崩壊の迫る病院の現状、資金繰りに困る中小企業の声を聞き、国民が感じている危機感を今一度共有する必要がある。

第二のステップは、変革推進チームを作ることである。現在の推進チームは、官邸の感染症対策本部、諮問委員会、厚労省対策専門家会議などであるが、対策本部は専門家の意見を聞くという姿勢で諮問委員会に丸投げ状態、諮問委員会、対策専門家会議のメンバーは、疫学者が中心であり、臨床を行う医師、民間の識者のプレゼンスはほとんどないという偏った状態である。

また、議事録を見れば、それは官僚の作文であり、どれほど活発な議論がなされているかは疑問が残る。ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授、本庶佑教授らも自らの意見を積極的に発信しており、彼らのような医学知識があり、新型コロナ問題への対応について意見を持っている人を諮問委員会のメンバーに加えることも有意義ではないかと考えられる。

ビジョンと戦略を掲げ、周知を徹底

第三のステップは変革のためのビジョンと戦略を掲げるということ、第四のステップはそのビジョンと戦略を周知徹底するということである。これが今の安倍政権の新型コロナ対応で最も欠けているところである。

政府は、これまでクラスターつぶしが有効な戦略であり、PCR検査ばかりを優先しないとの見解を国民に発信してきた。今は、感染経路不明の感染者が増え、フェーズが変わったが、政府から新たな新型コロナつぶしの戦略は発信されていない。韓国では、MERSの経験を生かし、感染者の行動監視を徹底することで収束に向かっているという例がある。

政府も一刻も早く新型コロナつぶしのビジョンと戦略、国民生活を維持するための経済対策のビジョンと戦略を立案し、それを国民にわかりやすい言葉で語りかける必要がある。それでこそ、国民も苦しい今の状況を耐え忍ぶことができるのだ。

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