コロナとの戦いで見えた中国の本質的な問題 IT強権国家のルールが世界を支配する日

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『中国が世界を攪乱する――AI・コロナ・デジタル人民元』のもともとの目的は、 AI、 ビッグデータ、顔認証、信用スコアリング、プロファイリングなどといったことについて、自由と権力との関係を考察したいということでした。

本書を準備する途中でコロナウイルスの問題が生じたわけですが、これはまさしく本書が追求していた問題そのものであったのです。

本書は当初は、2018年ごろから始まった米中経済戦争をテーマとしていました。これがトランプ大統領の単なる気まぐれによるものではなく、未来世界における覇権をめぐる、アメリカと中国の基本的思想の衝突であるという理解から、さまざまな分析を行っていました。

特に強調したかったのは、超長期的視点からの歴史の理解です。

西欧に屈服した中国が20世紀末に変貌

中国は、人類の歴史の長い期間において、世界の最先端国でした。ところが明の時代からそれが変化し始め、ヨーロッパに後れをとるようになります。そして1840年に始まったアヘン戦争によって、中国は西欧に屈することになります。

ところが、こうした屈辱の歴史が、1990年代の末ごろから大きく変わり始めたのです。鄧小平による改革開放政策が成功し、中国は工業化への道を驀進しました。

その後、eコマース、電子マネーなどの面で目覚ましい発展をとげ、最近では、AIやビッグデータ、顔認証、プロファイリングなどの分野でアメリカを抜いて世界最先端に立つような状態になっているのです。

本書はなぜこのような変化が生じてきたかについて、長期的な歴史のパースペクティブから考察しています。

つい数か月前まで、われわれは、中国という強権管理国家が未来の世界で覇権を取ることはない、と考えていました。なぜなら、覇権国家の必要条件は「寛容」(他民族を認めること)であり、中国はその条件を欠いているからです。

しかし、この信念が、いま大きく揺らいでいることを認めざるをえません。

アルベール・カミュは、その著書『ペスト』において、「ペスト菌は死ぬことも消えることもない」と言っています。

カミュがペスト菌という言葉で表現しようとしたのは、ナチスに代表される管理国家です。「それは、ナチスが消えても、なおかつ世界から消えることはない」というのが、カミュの警告なのです。

カミュのこの予言が現代の世界における最も基本的な問いであることを、われわれはいま、思い知らされています。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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