スズキがインドでシェア50%超を維持する理由 世界5位の大市場で販売台数はトヨタの10倍

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ニーズに合わせたラインナップの豊富さはマルチ・スズキの強みだが、これは現地の販売規模が大きなマルチ・スズキだからできる力業とも言える。

販売店の多さも顧客にとって重要だ。マルチ・スズキは現在、インド国内に約3000もの店舗を持つ(商用車販売店や上級チャンネルのNEXA店も含む)。これはインドでシェア2位につける現代の約1300拠点に対して、圧倒的に多い。

購入だけでなく、あとあとのメンテナンスなどアフターサービスを考えても、販売拠点数の多さ、つまり顧客の近くに店舗があることは、ユーザーに選んでもらうための大きな強みとなる。

2030年、インドは1000万台市場になる?

スズキがインドに強い理由。それはなにより同社がインドの自動車黎明期に市場へ参入し、その後40年近くにわたって現地のモータリゼーションの発達の中心となり、成長してきたからにほかならない。

インドの自動車産業は、マルチ・スズキを中心に動いているといっても過言ではない状況なのだ。だから、他を寄せ付けないのである。

インド市場はまだまだ成長の余地がある(筆者撮影)

現在、インドの自動車市場は世界5位だが、巨大な人口を抱えるマーケットだけに、経済成長に伴って日本やドイツを抜き、アメリカや中国に迫る可能性が高いと予測されている。10年後の2030年には現在の約3倍に相当する“1000万台市場”になるという推測もあるほどだ。

スズキは、ここ10年で北米や中国から4輪事業を撤退した。それは言い方を変えれば、自動車としては大きなマーケットだが、同社にとってはインドの2割にも満たない市場でもある。

そこを捨てることによって、インドに経営資源を集中するという意思表明だ。鈴木修会長は「1000万台市場でもシェア50%を確保するために、逆算して計画を立てていく」と拡大戦略を描く。

スズキ自身にとっては、海外をインドだけに頼る「インド一本足打法」のリスクがないわけではないが、この先インドが1000万台市場になったとしても、マルチ・スズキのポジションを脅かす自動車メーカーが登場するのは、そう簡単なことではないだろう。

工藤 貴宏 自動車ライター

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くどう たかひろ / Takahiro Kudo

1976年長野県生まれ。大学在学中の自動車雑誌編集部アルバイトを経て、1998年に月刊新車誌の編集部員へ。その後、編集プロダクションや電機メーカー勤務を経て、2005年からフリーランスの自動車ライターとして独立。新車紹介を中心に使い勝手やバイヤーズガイド、国内外のモーターショー取材など広く雑誌やWEBに寄稿する。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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