「寝台列車の楽園」インドは日本と何が違うのか あらゆる客層が乗車、垣間見える階級格差

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出発時間は16時25分、到着は翌朝7時29分、利用したのは2段寝台で、運賃4164ルピー(約6700円)、スナック、夕食、朝食付きで、ペットボトル水と紙コップも付いている。寝台は2段といっても、レール幅が広軌なので、枕木と平行に寝る4人、線路と平行に寝る2人で1つの区切りとなる。長丁場なので、スナックと食事の際はお茶が各自でおかわりできるように、お湯はポットごと1人1個配られる。

最上級にあたる個室寝台を覗かせてもらったら、食事はレストランそのもので、折り畳みテーブルをセットし、お釜と鍋を持った給仕係が1人ひとりにご飯やカレーをよそっていた。

各ベッドには封印された袋に入ったシーツ、枕カバー、タオルが入っている。給仕係は各車両にいて、デッキには彼らが寝る簡易ベッドが用意されている。

同じ区画にはドイツ人旅行者と東インドからの夫婦が乗っていて、東インドの人と日本人は顔つきが似ているということが話題になりいろいろな話に花が咲いた。

この列車に乗って感じるのは、1つの列車を走らせるのにずいぶんと手間をかけていることだ。お湯を沸かしてポットに入れるだけでも大変な手間がかかるであろうし、食後にはアイスクリームも配られた。シーツも奇麗にアイロンがかけられている。そういえば駅に到着するたびに寝台車から大きな袋が降ろされトラックに運びこまれていたが、その中には大量のシーツが入っていたのだろう。こんな列車が毎日インド中を縦横に走っているのである。国鉄とはいえ収益性に富む列車とは思えないが、国鉄時代の日本を思い起こすと、やはり寝台特急運行にはそれなりに手間をかけていたと懐かしくなる。

日本の寝台列車と何が違う?

寝台専用列車以外の夜行列車も多くあり、それらの列車にもエアコン付き寝台車が連結されている。これらの列車でも寝台の乗り心地は同じなので、インドの津々浦々まで、エアコン付き寝台車にさえ乗れば快適な旅が楽しめる。

日本ではブルートレインが姿を消し、夜行寝台列車は「サンライズ」のみとなった。サンライズの寝台は個室のみなので、前述のようなたまたま乗り合わせた客との触れ合いはない。また、昔を懐かしむためといったイベント目的の寝台列車が走ることもあるが、定期列車だった頃は、帰省客、東京の子供に会いに行くための老夫婦など、さまざまな客が乗り合わせていることが旅情に結び付いていたので、イベント目的の夜行列車で旅情が味わえるわけでもないだろう。

かつてはヨーロッパでも多くの夜行列車があったが、高速鉄道への移行で多くの長距離列車が姿を消した。現在は、夜行列車が多く活躍する地域は、東欧からロシア方面などに移行している。中国でも高速列車の台頭で、長距離夜行列車は激減している。

インドは世界で最後の寝台列車王国なのである。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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