ところがHCCIで燃焼させることができるのは、主に低回転で負荷の小さいときのみ。現実のクルマで加減速を自在に行えるように、全域で燃やすことができなかった。そこで、圧縮で燃やせないところは点火プラグを使えばよいとなったが、今度はHCCIと点火プラグの切り替えが難しい。ここで、ほとんどの自動車メーカーが足踏みとなっていた。
しかし、マツダは発想を逆転した。それは「全域で点火プラグを使う」というアイデアだ。
本来、圧縮着火は点火プラグなしで行うのが前提だ。“点火プラグを使う”といった時点で矛盾になる。しかし、その驚きのアイデアがブレークスルーを現実のものとした。
点火プラグで、燃料すべてを燃やすのではない。点火プラグで小さな火を作る。そして、その小さな火の圧力で、エンジン内の圧力を高めて圧縮着火をコントロールするのだ。これにより、HCCIと点火プラグの切り替えがなくなった。
マツダは、この方式を「SPCCI(Spark Controlled Compression Ignition:火花点火制御圧縮着火)」と名付けている。
もちろん、世界初の技術だ。ハードウェアは、高圧で燃料を噴霧する燃料噴霧システム、エンジン内の圧力をモニタリングするセンサー、そして大量の空気を送り込むエアサプライ(スーパーチャージャー)というシンプルな内容で、夢のエンジンを実現することができたのだ。
10年にわたってブレずに開発した結果
スカイアクティブXの実用化は、昨年のマツダ3への搭載から。しかし、その研究は驚くほど前から行われていた。マツダが我々の前に圧縮着火の構想を示したのは、なんと10年も前。それは2010年のスカイアクティブテクノロジーの発表時だ。
その時マツダは、世界最高の圧縮比を実現したガソリンエンジンであるスカイアクティブGと、世界最低圧縮比のディーゼルであるスカイアクティブDを公表した。
当時は、「世界最高の圧縮比、世界最低の圧縮比なんて、本当に実現できるのか?」と驚いたものだが、その資料には、さらに先の次世代エンジンの課題としてHCCIが記載されていたのだ。
10年もブレずに開発を進めた結果が、現在のスカイアクティブXの実現であったのだ。
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