日本でiPhone SEに人気が集中する特別な事情 廉価版発売でiPhone市場が再び活性化するか

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背景にはさまざまな事情も囁かれていたが、使いやすく手離れのよい、またOSのアップデートなどのサポートも安定していたiPhoneは、携帯電話キャリア各社がフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行を進めるうえで、うってつけの製品だったことが大きいのだろう。

その後、毎年のようにiPhoneユーザーは増加していき、日本はグローバルでも例を見ないほどiPhoneが強い国になった。

さまざまな進化がなされた現在、単純に機能の面だけを見れば、操作性なども含めて、Android端末とiPhoneに特段の違いがあるわけではない。

しかし一度使い慣れてしまうと、使用しているアプリの再購入、再導入など、さまざまな面を考慮すれば、次に買い換えるときも同じ種類の端末を選びたくなるものなので、ここでもiPhoneはAndroid端末に対して優位性を持っている。

Android端末はメーカーごとのユーザーインターフェースが統一されていない場合もあり、またバックアップと復元もiPhoneほどのスムースさがない。一方、iPhoneは機器同士を近づけるだけで、その設定を移行できる。端末の乗り換えは、面倒で憂鬱な作業だが、そのハードルが低いのだ。

だからこそ、iPhoneユーザーは次もiPhoneを使いたいと思っているが、一方で「人気が高いうえにお買い得な端末」としてiPhoneを入手してきたユーザー層は、iPhoneへの買い替えに二の足を踏む状況が続いてきた。

手頃に入手できるiPhoneが消えてしまった

総務省の方針に従うかたちで、携帯電話キャリア各社は端末料金と通信料金を分離。iPhoneの価格が上昇を続けたこともあり、手頃に入手できるiPhoneが最新モデルのラインナップから消えてしまったのだ。

このためアップルは旧型モデルを購入しやすい価格帯に残すことで、価格レンジを下に広げていた。一昨年末のiPhone XSシリーズ発売時にはiPhone 8シリーズを低価格版として残し、第2世代iPhone SE発売時までカタログに載せ続け、昨年末のiPhone 11/11 Proシリーズ発売時にはiPhone XRの価格を引き下げた。

調査会社GfKによるとiPhone 11/11 Proシリーズが発売される直前、2019年8〜9月上旬までは、iPhone全体のおよそ4割がiPhone 8だった。新モデルが発売される直前、最新機種の動向に敏感ではない消費者は、新モデルが発売される直前にiPhone 8を選んでいたということだ。

2017年9月発売の端末としては異例のロングセラーだったこの端末が人気だったのは、5万円台前半から購入できる手軽さがあったことは想像にかたくない。

しかし、そのiPhone 8が搭載するA11 Bionicも、近年アップルが進めている機械学習処理やカメラ機能の大幅な進化には対応できず、端末の使用感、今後の進化ともに心許ない心臓となってしまっている。

価格高騰などから買い替え先を失っていたiPhoneユーザーは、iPhone 6/6Sに留まっていることが多い。この層が低価格かつ高性能なiPhone SEに流れ込めば、再びiPhone市場が活性化するとともに、Androidベースでライバル端末を開発する他メーカーの事業にも少なからず影響を与えるだろう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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