サングラスの奥に見た、タモリの誇りと優しさ 「笑っていいとも!」、もう「終わってもいいとも」

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タモリという港は人が寄るだけでなく、エネルギーを満タンにして芸能界という大海にタレントを送り出してきた。人を育てるのは人生で最も偉大な仕事のひとつだと言われるが、多くの芸能人が「笑っていいとも!」をプラットフォームに、お茶の間に羽ばたいていったことも特筆に値しよう。

鶴瓶師匠の「この人は港みたいな人や」というのは、自分自身が他人にとって「港みたいな人」であれているかどうかを自問する、よい契機になった。

面白いかどうかより、見ていたいかどうか

実はこのグローバルエリートの弟子ことブラザー・キム、金融の世界に飛び込む前はお笑い志望の一時期があり、恥ずかしながら高校のときとか大学のときはお笑い番組のオーディションに何度か出場したことがある。持ちネタは、「裸の大将のモノマネ」一本、という勝ち目の薄い戦いだったわけだが、私自身、タンクトップにグリーンの短パンを着て、傘を差しながらおむすびを食べる姿に絶大な自信があったこともあり、何度かこのネタでお笑い番組のオーディションに出陣したことがある。

そこでいったん大笑いしてくれたものの、先に進めてくれなかったプロデューサーの一言が、実は私の脳裏に刻み込まれている。「お笑い番組って、タレントが面白いかどうかより、視聴者がずっと見ていたいかどうかが肝心なんだよね……」。

お笑い番組なのに、最も求められているのは笑いではなく、視聴者が繰り返し見たいと思う気持ち、これは言い換えれば「安心感」ということであろう。この意味で、「笑っていいとも!」は、決して笑えるような番組ではなく、正直、マンネリで惰性化していた。しかし、確かに安心感という意味ではほかの番組の追随を許さない、昼に8チャンネルに合わせると32年間、ずっとそこにタモリがいる――そういった絶大な安心感をお茶の間に提供してきた。

32年というと、3歳くらいからテレビを見始めるとして、実に日本の人口の4割はタモリと共に育ち、また残りの6割は大人になってから笑っていいともを見始めて今に至っているわけである。そう考えれば実に多くの日本に住む人々のあらゆるライフステージで、絶対的な日常感と安心感を提供してきたのが、「笑っていいとも!」が32年続いた秘訣ともいえるだろう。

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