アリババ「アマゾンすら凌ぐ」巨大市場の正体 手数料無料の大胆戦略で探り当てた鉱脈
2019年11月には、さらなる新しい実験として、「フーマーリー(盒馬里)」という総合ショッピングモールを深圳市にオープンしました。ユーザーは、ショッピングモール内に入店する約60店舗の商品を、フーマーリーのアプリで注文することが可能です。マー氏は、オンラインとオフラインが融合したOMOについて、「ニューリテール(新小売り)」と表現しています。
今後10~20年程度でオンラインのビジネスは消え、その代わりに台頭するのがニューリテールであると、マー氏は述べています。“アリババ経済圏”においては、あらゆる商品やサービスでニューリテールが実現することになるのは間違いないでしょう。
ニューリテールを消費に関わる構想とするなら、製造に関しては「ニューマニュファクチャリング」という構想を打ち出しています。
この構想について、マー氏は、「例えば5分間で同じ種類の2000着の衣類を製造するよりも、5分間で2000種類の衣類を製造することがより重要視される時代がやってくる」と説明しています。そして、大量生産によるスケールメリットを生かしてコストを削減してきた伝統的な製造業は、今後15~20年で苦境に立たされ、消費者の個性に対応した新しい製造業として「ニューマニュファクチャリング」が誕生する、という見通しを述べているのです。
一人ひとりのユーザーのニーズに応じて、1つからでも製品をつくるということは、あらゆる既製品がオーダーメイドの製品になるわけで、ニューマニュファクチャリングとは、もはや製造業というよりサービス業に近いといえます。すぐに実現することはないでしょうが、アリババが持つ膨大な消費者のビッグデータと、そのデータを解析するAI技術をもってすれば、個別のニーズを高い精度で把握し、“一点モノ”を製造して提供することは夢ではないでしょう。
新型コロナウイルスへ対峙
以上、アリババの強みや特徴についてまとめてきました。アリババは、単なる小売りやEコマースの会社ではありません。Eコマース事業などを通して収集する膨大な消費者のビッグデータとそれを解析するAI技術、これこそがアリババの最大の武器であり、財産です。
事業領域はそこからクラウド、物流、金融、メディア、コンテンツなどへ多方面に広がっています。そして、その根底にあるのが、「社会的問題をインフラで解決する」というミッションです。まさにアリババは、中国の新たな社会インフラ企業である、と言ってもよいのです。
アリババは、新型コロナウイルス対策に際してもテクノロジーを利活用することによって、混雑解消、建物への出入りや移動の管理、公共エリアの環境の管理や監視などのソリューションを提供しています。そこで利活用されているのがQRコード、AI、画像認識、ロボットなどといった、アリババが社会実装を進めてきたテクノロジーです。
また、冒頭で述べたAI診断システムや特設サイトのほかにも、テレワーク支援、クラウド利用枠の無償提供、浙江大学医学院付属第一病院などと協力した多言語対応の『新型コロナウイルス感染症対策ハンドブック』の無料公開などの取り組みも行っています。
新型コロナウイルス対策でのテクノロジーの社会実装の促進をきっかけにして、アリババは、強みを生かしながら、中国の社会インフラ企業としてのさらに大きな役目を担うに至っています。筆者としては価値観的に「中国式デジタル資本主義」を首肯する気持ちにはなれませんが、日本や日本企業がその動向を注目していくことはさらに重要になってくるものであると考えています。
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