NY「何もかも足りない病院」で何が起きているか 米国人記者が見た医療崩壊のリアル(下)

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大事なのは収容能力の拡大で、治療を一部の患者に限定しなければならない事態となるのを防ぐことだった。ブルックリン・センターの院長兼最高責任者、ゲーリー・テリノーニは、食品や医療用品の寄付を受け取る一方で、医師が「善戦」し「地域に確実に医療を提供していけるよう」ベッドや機器、資金の提供を市と州に要請しているところだ、と語った。

ところが、入院治療が不要となった患者を退院させ、新たな患者を受け入れることすら簡単にはいかないことがある。ローゼンバーグ医師は、集中治療室を出られる状態となった患者の1人を老人ホームに戻せるかどうかに気をもんでいた。老人ホームも市の全域で人手不足に陥っていたからだ。政府が整備を進める退院患者の受け入れ拠点も、まだオープンにこぎ着けていなかった。

これでは看護師が殺されてしまう

患者が亡くなった時でさえ、必ずしもそれで終わりとはいかなかった。週末までに、同病院には市の監察医によって2台の大型冷凍トラックが配備された。うち1台では、より多くの遺体を収容できるよう内部に棚を設置する作業が進められていた。葬儀場が能力の限界に達し、遺体を引き取れなくなるところが出てきたためだ。野次馬にこれ以上、携帯電話で動画を撮影されないようにテントも設営された。

その間にも、集中治療室には継続的に患者が運び込まれてくる。175年の歴史を持つ、この病院の関係者もいた。「私たちにとって、この病院はわが家みたいなもの」と、医務部長のコンダムディ医師は言う。

救急部門で副主任を務めるアントニオ・メンデス医師は、この病院で生まれた。その病院の集中治療室に今、メンデス医師の母、ジョセフィーナさんがいる。「母は強い。担当の医師も懸命に戦っている」とメンデス医師。

現場に復帰したその日、ローゼンバーグ医師はジョセフィーナさんの血液ガスをチェックし、呼吸の状態を確かめた。「調子はよさそうだ」。ローゼンバーグ医師は治療にあたったチームをねぎらった。

その長い1日が終わる頃、ローゼンバーグ医師は、自分もよく知る研修医の1人が救急救命室に搬送されたことを知った。新型コロナの症状が出ており、胸部X線にも心配な点があるという。

「すぐ集中治療室に運ばれることになるだろう」。ローゼンバーグ医師はチームのメンバーに伝えた。「挿管が必要になる可能性が高い」。

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だが、この研修医を集中治療室に入れるには、さらなるスタッフの確保が必要だった。「もっと看護師が要る」とローゼンバーグ医師は言った。人手不足はすでに深刻だ。「これでは看護師が殺されてしまう」。

程なくして、普段は心臓カテーテル室を担当している2人の看護師が集中治療室にやってきて支援を申し出た。ローゼンバーグ医師は拍手をしながら言った。「さすが、わが病院。戦士たちのお出ましだ」

(C)2020 The New York Times News Services

(執筆:Sheri Fink記者)

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