天下りの研究 その実態とメカニズムの解明 中野雅至著 ~天下り問題の奥底を抉った タイムリーな「百科全書」
天下り問題は実に複雑だ。本書は、この入り組んだ複雑怪奇な天下り現象についての、恐らく最も包括的な研究書だ。そのボリュームには圧倒される。
興味深い指摘をいくつか挙げてみよう。まず、いわゆるキャリア組だけでなく、ノン・キャリア組、さらに地方公務員にも天下りが広範に見られる点がデータで示されている。また、1960年代ごろまでは頻繁だった民間営利法人への天下りは、近年減少してきただけでなく、景気悪化で失業率が上がると逆に減ることが明らかだ。つまり、受け入れる側の民間営利法人の自律性が強まったのだ。
逆に60年代ごろからは、大量の公益法人が生み出され、場合によってはそれらが営利の子会社を設立し、さらにそこへと天下る仕組みが出来上がってきた。天下りのシステムは、公と民の世界をまたぎながらどんどん複雑になってきたのだ。
法令上、天下りを監視するのは人事院だ。しかしその役割は限られている。営利法人への天下りだけを対象としているためだ。その分、法令上は許されている特殊法人や認可法人、その他の公益法人への天下りは、むしろ、会計検査院によって「金の無駄遣い」の観点からチェックされている。随意契約や補助金との関連だ。
また、自民党政権時代、「政官業の癒着」といわれて久しかったが、たとえば自民党と医師会との緊密な関係は、その間に厚生官僚の天下りを挟んでいない。つまり、「政業」癒着だった。よく見ると、いろいろなパターンがあったのだ。
あるいは、戦前にも天下りはあったが組織的とはいえず、現在の「天下りシステム」は、いわば戦後という異なった環境の中で状況に応じて形成されてきたという主張も説得的だ。
天下り問題の複雑さは、それを規制するルールの微妙さにも表れている。天下りや「わたり」という言葉は誰もが知っていようが、実際の規制ルールについてどれくらいの人が知っているだろうか。
本書は、天下り問題のいわば百科全書だ。役所ごとの違いに始まり、次官と局長以下の扱いの相違、役所の人事システム自体との関連性、受け入れる側の理由なども明らかにされている。そして一体どのような実態なのか、ルールはどう変わり、国民はそれをどう受け止めてきたのか。これらも詳しく論じられている。
「天下りの根絶」をマニフェストに掲げた民主党の鳩山政権は、政治主導の掛け声の下、この天下り問題にどのようなメスを入れるのか。天下り問題の奥底を抉(えぐ)った本書は、実にタイムリーだ。
なかの・まさし
兵庫県立大学大学院応用情報科学研究科准教授。1964年生まれ。同志社大学文学部英文学科卒業、米ミシガン大学大学院で公共政策修士。新潟大学大学院で経済学博士。大和郡山市、労働省、厚生省、新潟県、厚生労働省を経て、公募により現職。
明石書店 2940円 534ページ
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