LINE、300億円で「出前館」を取り込む真の狙い コロナ危機で需要爆発、外資競合にどう勝つ

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スーパーアプリを目指すうえで、LINEをはじめとする日本勢にとって手薄だったのが「食事」領域だ。そもそも、出前館とアメリカ、イギリス、韓国などの同業との利用実態を比べると、出前サービス自体の国民への浸透度が圧倒的に低い。「日本には出前の文化がないと言われることもあるが、そんなことはないと思っている。いろいろな業界、サービスがデジタル化していく中で、間違いなく伸びる市場だ」(27日の会見に同席したLINE取締役の舛田淳氏)。

では、出前サービスを日本でどう浸透させるのか。舛田氏は、「“ハレの日”にお寿司やピザを頼んでもらうだけでなく、日常的にどう使ってもらうかがキーになる」と指摘する。今後はLINEと出前館が一体となり、全国で加盟飲食店数を増やすことや、シェアデリバリー拠点と配送員を増やすこと、アプリ上で優先表示する店やメニューをユーザーごとに最適化することなどを通じ、出前サービスの日常利用を促進したい考えだ。

将来的には食べログやぐるなびも競合に

両者はさらに先も見据える。ブランドやIDの統合で出前サービスを強化する次の段階として、テイクアウト(持ち帰り)予約、来店予約、事前注文・決済などへ対応範囲の拡大を構想する。

将来的には、飲食店向けのマーケティング分析ツールや、LINEが開発するAI電話応対サービスの提供も合わせ、飲食店の経営をあらゆる方面から支援できる体制へと進化させることをもくろむ。ここまで来ると、グルメサイト「食べログ」や「ぐるなび」とも競合するビジネスになりそうだ。

LINEの藤井氏は「既存プレーヤーと組んでいくのか、われわれ独自でやっていくのかはまだ検討段階」としつつ、「(出前やテイクアウト、来店の)各サービスが1つのアプリで行えることでユーザーの利便性は最大化できる。

加盟店側もLINEとの統合で「これらシステムやマーケティングを統一して行えるようになる」と、独自の強みを強調。これらを実現するうえでは、LINEがメッセンジャーとしての強みを生かして展開する、事業者向けの「公式アカウント」サービスも、予約や注文において飲食店と利用者をつなぐツールとして重宝しそうだ。

折しも、冒頭に指摘したとおり新型コロナウイルスの感染拡大で出前サービスへの需要はにわかに高まっている。「2月の末くらいから伸びが顕著になった。注文数もそうだが、店舗からの問い合わせが、通常時の3~4倍になっている」(中村社長)。コロナ危機以前から、人手不足やデジタル化の遅れといった課題が山積する外食産業。LINEと出前館の挑戦は、新しい風を吹き込めるか。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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