コロナ大打撃で露呈した百貨店ビジネスの岐路 訪日客依存の終焉、今後必要な改革は何か?

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2.「利益確保に必要な消化からの脱却」マーチャンダイジング(MD)の変革

もともと小売業の原点は「利は元にあり」でした。これは利益を出すには仕入れが大切という意味です。

百貨店を低迷させたのは独特な商習慣にありました。百貨店側が価格決定権を持たない「委託」や「消化」という仕入れや、返品条件付きの買い取りです。これは百貨店が在庫のリスクを持たず、メーカーが在庫リスクを負います。ゆえに百貨店がMDに真剣なビジネスになりえていないのが現状です。

百貨店は自社・自店の顧客に合ったMDを提供し、カスタマイズすることが必要です。現在の百貨店の仕入れを担当するバイヤーは、商品の良しあしを見抜く目利きの力は素晴らしいものがあります。GMSよりも売場面積が小さい百貨店ならではの絞り込みをする力は最高といえるでしょう。

しかし、自社・自店に合う乾坤一擲の90点の商品を1点だけ出されても、バイヤーは買えません。70点と80点の商品を2つ出されて70点を見ながら80点を選んでいるのが現状です。要は比較購入なのです。また固定掛け率のため仕入れの価格交渉力も弱く、自社・自店での販売価格も売価決定権のあるメーカー依存(メーカー希望小売価格)にならざるをえません。

百貨店が生き残る道はPB開発にある

そこで毎シーズン自社・自店顧客に適したMD(モノ&コト)が仕入先にあるのなら良いのですが、無ければどうすべきなのか? 他力依存では自らのビジネスの安定性は維持できません。よって、今後の百貨店各社は自社によるPB(プライベートブランド)開発が必然といえるでしょう。

これまで、百貨店は買い取りでのPB開発に苦慮しており、各社散々な目にあってきました。理由はMK(マーケティング)力とMD(マ―チャンダイジング)力不足であることは否めない事実なのですが、どんな良い商品を開発したとしても、いちばんの不足は自社・自店の販売実力把握不足なのです。

つまり、シーズン終了後に商品が余りすぎてしまう在庫過多による処分損を吸収できず、苦しんできました。今後は自社・自店の既存顧客実態把握のうえ、どのようなライフスタイル(衣食住)のお客様にどのようなMDを提案していくのかが重要であり、PB商品開発と同時にディレクターの確保も必要なのです。

そのディレクターも衣食住のカテゴリー別ではなく、1つのテイストで横串を刺すこと、つまり世界観を作ることができる存在でなければなりません。その下にカテゴライズされたサブディレクターを置き、そこからバイヤーにつなげるような仕組みが重要です。つまり、「この居心地の良い世界に浸っていただくと満足」という世界を構築するのです。

PB開発においてはニッチな世界観ではなく、自社・自店のマス顧客に向けてのMD構築が最優先です。そしてコスト分解(素材、付属、加工賃、ロス、マージン等)の適正判断も下しながら、数年かかってでも、できるところから経営者自ら進んで展開するべきなのです。

3.「お客様へのお伝えの方法」プロモーション(PM)の再構築

最後に、いくら良いMDでも、自社・自店のお客様に伝わらなければ意味をなしません。よって、開発したMDはそれを必要とされる、あるいは欲しいと気がついていただきたい人に的確なプロモーション手法でリーチをかける事が必要不可欠なのです。

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