「原発の闇」を利用した関西電力首脳の罪と罰 原発コスト専門家が語る「調査報告書」の核心

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──不正の構造をどのように捉えますか。

関電は地元対策と称して、森山氏と親密な工事会社に多額の発注をしている。その原資は電気料金だ。その一部が業者や森山氏を経由して関電の首脳や幹部に還流していた。電気料金からにじみ出た甘い汁を、みなで吸っている構図だ。

関電の社内調査報告書では、過去の原発立地にまつわる「闇の部分」を材料に、関電の幹部らが森山氏の恫喝に苦しめられてきた被害者であるかの書きぶりになっているが、今回の第三者委員会の報告書で共犯関係と記述されていることが注目される。

大島堅一(おおしま けんいち)/1967年生まれ。立命館大教授などを経て、2017年から龍谷大学政策学部教授。専門は環境経済学。著書に『原発のコスト』など(記者撮影)

──こうした癒着の構図は、原子力事業に特有のものだと言えますか。

電力業界において、原子力事業ほど多額の金が落ちる分野はない。工事単価を高めに設定したり、地元対策と称して特定の企業を優遇していると言われてきた。こうした仕組みそのものが不正の温床になっている。関電に限った問題ではない。

──関電の役員は、会社に損害を与えていることになりませんか。

役員や幹部に原発マネーが還流しているということは、不必要な金が払われているという観点で捉えると、会社に損害を与えていることに等しい。

原発ビジネスは成り立たなくなる

金品授受という不祥事が社内で発覚した後、森詳介相談役、八木誠会長、岩根茂樹社長(いずれも不祥事が社内で発覚した2018年当時の肩書)は社内調査の内容を隠蔽することを取り決め、取締役会や翌2019年の株主総会でも報告されなかった。

これは株主や電力の消費者、一般社会に対する重大な背信行為だ。関電にはコーポレートガバナンスそのものが存在しておらず、コンプライアンスよりも原発事業を優先している。不正が蔓延し、責任感が欠如している。関電は、重大事故の危険の防止が何よりも求められる原子力運営を担う企業としての資質を欠いており、社内処分だけでは不十分で、電気事業法に基づく厳正な処分が必要だ。

──今回の不祥事は今後、原発事業の推進にどんな影響を与えるのでしょうか。

原子力事業が不透明で不正な金によって支えられていることが認識され、信頼は根底から崩れた。一方、事業の透明性を高めなければならなくなると、原発の新設やリプレース(建て替え)はいっそう困難になる。というのも、これまでのような不透明な金の流れが断ち切られると、地元としても新たに原発を受け入れるメリットがなくなるからだ。

今後、原発は普通のビジネスと同様の扱いをすべきだが、そのことにより原発はビジネスとして成り立たなくなるだろう。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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