「関電再生」には刑事責任の追及が不可欠だ 郷原弁護士に聞く、「金品授受」報告書の核心

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──刑事責任の追及は行われるのでしょうか。

必要だし、やるべきだ。しかし、大阪地検にやる気はないだろう。なぜならば、関電と大阪の検察は、大物検察OBを通して、長年にわたって腐れ縁の関係があったからだ。

郷原信郎(ごうはら・のぶお)/1955年生まれ。東京地検検事、長崎地検次席検事などを経て、現在弁護士。九州電力の「やらせメール事件」など企業の第三者委員会の委員長を複数経験している(撮影:今井康一)

元大阪高検検事長や検事総長などの要職を務めた土肥孝治氏は、2003年6月から2019年6月までの長きにわたって関電の社外監査役を務めた。土肥氏は今回の金品授受問題に対して監査役としての責任を果たしたとは言えない。

元大阪地検検事正の小林敬弁護士も関電のコンプライアンス委員会で社外委員を務め、関電があたかも被害者であるかのような書きぶりの社内調査報告書を取りまとめた。

しかし、検察が動かなければ、市民の刑事告発により検察審査会が起訴相当の判断をする可能性が十分にある。そうなれば検察組織の信認は失墜する。検察にとって正念場だ。

経営陣全員が責任をとることが必要

──調査報告書によれば、金沢国税局から金品受領に関して追徴課税された豊松秀己元副社長がエグゼクティブフェローに就任した際、フェローの報酬に上乗せする形で追徴課税された報酬分の補填を実施することを取り決めています。

そのような支出に合理的な理由はなく、特別背任に当たる可能性が高い。報酬が返還されれば、おとがめなしということにはならない。

──調査報告書は、内向きの企業体質を是正するために、社外から取締役会長にふさわしい人物を招聘すべきだと指摘しています。また、コンプライアンスを徹底するため、原子力事業本部において、コンプライアンス部門トップを本部長に次ぐ位置づけにし、社外取締役と太いパイプを持つ仕組みとすることなどを提言しています。

コンプライアンス上の問題を引き起こさないためにも、そうした仕組みに意味はある。しかし、それは今回の事件に十分なけじめをつけて、不正行為を長年繰り返してきた企業文化を一新することが前提だ。それが変わらない限り、システムを整えただけでは意味がない。

これまでに経営にかかわってきた人たち全員がいなくなるくらいの責任の取り方が必要だ。

──原発推進への影響についてはどうでしょうか。

関電はコンプライアンスを無視し、ガバナンスがまったく欠如している。このような不正を重ね、不透明なやり方をとらなければ原発を動かすことができないというのであれば、何も無理して原発など続ける必要はないという世論が形成されることになるだろう。

そうした意味でも、(不祥事が与えた)原発事業への影響はきわめて大きい。今回の不祥事は、原発の歴史を塗り替える出来事になるだろう。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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